恐竜が生き残っていたら、どんな姿になった?
想像してみてください。
絶滅の危機を回避した恐竜たちが、その後も長い年月をかけて高度に進化した姿を。
直立二足歩行で地上を歩き、火を発明し、道具を使って文明を築き、宇宙に乗り出して月に旗を立てる姿を。
なにやら不気味なSF小説のようですが、そんな妄想を働かせて、科学的に検証した人物がいました。
カナダの古生物学者であったデイル・ラッセル(Dale Russell、1937〜2019)です。
ラッセルは、トロオドン(Troodon)という実在した肉食恐竜をモデルに、「もし恐竜が絶滅していなかったら…」という思考実験を展開しました。
トロオドンは、白亜紀末期(約7400万〜6600万年前)の北米に生息した羽毛恐竜で、体サイズに比して大きな脳頭蓋を持っていたことがわかっています。
また物をつかんだり握ったりする器用な指と、立体視可能な目を持っていたと推測されることから、ラッセルは「トロオドンが絶滅せずに進化していれば、ヒトによく似た知的生物になったかもしれない」と考えました。
こうして1982年に発表したのが、トロオドンを下敷きにした恐竜人間「ディノサウロイド(Dinosauroid)」です。
これは発表当時も話題になっていたので、この恐竜人間の姿を昔テレビで見た覚えがあるという人もいるかもしれません。
ラッセルによると、ディノサウロイドは身長170センチほどで、全身がウロコに覆われています。
頭部は爬虫類の形態を残していますが、その他は現在のヒトの体型に近いという。
大きな脳と3本の指を持ち、うち1本はヒトの親指と同じく、道具をつかめるよう他の2本に対向しています。
尾はすでに退化しており、かかとを接地させる直立二足歩行を発達させています。
また、哺乳類ではないので乳房はありません。
そこで母親は、子どもが幼いうちは現代の鳥類と同じように、食べ物を胃から出して与えるとのこと。
言語については、ある種の鳥の鳴き声のようなものが想定されていました。
ラッセルの唱えた「ディノサウロイド」は、当然というべきか、科学者よりもSF作家たちの関心を強く引きました。
また恐竜たちは現に絶滅してしまっているので、ディノサウロイドをそれ以上掘り下げてもあまり有益ではありません。
しかし姿形はどうあれ、恐竜たちが生きていれば、本当に”知的生命体”に進化し得たのかどうかは気になるところです。
英バース大学(University of Bath)の古生物学者ニック・ロングリッチ(Nick Longrich)氏は、これまでの恐竜学の知見を踏まえて、この疑問に答えました。