恐竜が「高度な知性」を発達させることは不可能?
ロングリッチ氏は、恐竜が高度な知的生命体に進化し得たかどうかに関し、単刀直入に「不可能ではないが可能性は極めて低い」と回答しています。
なぜなら、生物の生態はその進化の方向性をある程度制限してしまうからです。
恐竜の大きさを考えてみましょう。
ブロントサウルスやブラキオサウルス、アルゼンチノサウルスといった草食で首の長い竜脚類は、体重30〜50トン、体長20〜30メートルにまで達しました。
また肉食恐竜においても、アロサウルス、カルカロドントサウルス、そしてティラノサウルスなど、体長10メートル、体重数トンにも及ぶ巨大種が続々と誕生しています。
このように恐竜は生物として稀に見る巨大化を成し遂げた一方で、脳はそうではありませんでした。
恐竜は時代とともに脳が大きく進化する傾向が圧倒的に弱かったのです。
下の図は体の大きさと脳のサイズを比較したものですが、恐竜たちは哺乳類に比べて、脳のサイズが明確に小さいこと分かります。
比較的大きな脳を持つティラノサウルスでもわずか400グラムで、ヒトの脳はその3倍以上の1.3キログラムに達します。
もちろん恐竜の中には、小さな体で俊敏に動く小型種や群れを形成する社会性のある種もたくさん存在しました。
しかしロングリッチ氏に言わせれば、恐竜は、草食種も肉食種も総じて、脳は小さいまま体だけ巨大化させる進化を繰り返しているに過ぎなかったのです。
対照的に哺乳類は、恐竜ほど巨大な体を発達させはしませんでしたが、繰り返し大きな脳を進化させました。
脳の大きさだけが知性のすべてではありませんが、体サイズ比における脳の大きさは、高い知性を誇る動物の重要な要素です。
その代表的な例が、イルカやゾウ、そしてヒトを含む霊長類でしょう。
よってロングリッチ氏は「もし恐竜が生き残ったとしても、脳が少し大きくなったかもしれないが、天才的な進化を遂げることはなかっただろう」と述べています。
おそらく、恐竜たちが絶滅していなければ、その後も変わらず巨体に物を言わせて、生態系のトップに君臨し続けたはずです。
恐竜たちが闊歩する中にあっては、哺乳類たちも肩身が狭く、(実際に起きた)種の多様化は起きなかった可能性があります。
歴史にイフ(if)はありませんが、恐竜が生き残っていれば、哺乳類の繁栄も、霊長類の躍進も、ひいてはホモ・サピエンスの出現もあり得なかったかもしれません。
奇妙な偶然と幸運の重なりの末に、今日の私たちは存在していられるのです。