原爆はなぜ石の上に「人の影」を残したのか?
核爆発の熱線を浴びた物体や人々の影が、歩道や建物の表面に残されているという事実は、多くの人々にとって衝撃的であり、広島と長崎に起きた悲劇を今に伝える歴史的資料となっています。
ただこの現象がどのようにして起こったのかを理解するためには、核爆発の時に放出される強烈な光や熱、そしてその影響を受けた物質の化学的変化を考慮に入れる必要があります。
原子爆弾は核分裂によって発生するエネルギーを兵器化したものです。
また爆発のエネルギーが非常に大きくなるのは、連鎖的な核反応が起こっているからです。
ドミノの一つ一つを同位体ウラン235やプルトニウム239のような重原子の核とみなすと、あるドミノ(原子核)を指でつつく(中性子で衝突させる)と、それが倒れて隣のドミノに当たり、その次のドミノもまた倒れて…という連鎖的な反応が始まるのです。
そして核分裂では、この1つ1つのドミノが倒れる瞬間に、驚くほどのエネルギーがに放出されるのです。
核爆発の瞬間に放出される放射線や熱は非常に強烈であり、これに晒されると生物組織や物質は即座にダメージを受けることが知られています。
しかし、物体や人間の身体は、ある程度、これらの放射線や熱を吸収または遮蔽する能力があります。
このため、人間が直接放射線や熱の進行を遮る場所にいると、その背後の物質は放射線や熱の直撃を受けにくくなります。
一方、人間による遮蔽がなかった場所では核爆発の放射線や熱に直接さらされ、塗装剤などの化合物が熱分解による「漂白効果」を受けることになります。
つまり「人の影」となった部分は核爆発の放射線や熱からある程度守られた部分であり、影の色は当時の塗装などの色を残した場所であると言えます。
実際、2000年に奈良国立文化財研究所によって行われた調査では、影の部分は炭化した人間が染みついたものではなく、塗装剤のような付着物であったことが示されました。