無数の原子が描く「猫動画」の衝撃
無数の原子が描く「猫動画」の衝撃 / Credit:AI-Enabled Parallel Assembly of Thousands of Defect-Free Neutral Atom Arrays
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原子が描く「猫動画」の衝撃

2025.08.12 22:00:02 Tuesday

原子で動画を作る──そんなSFのような話が現実になりました。

中国科学技術大学(USTC)で行われた研究によって、数千個もの原子をレーザーの“光ピンセット”で自在に操り、ほんの一瞬で好きな形に並べ替える技術が開発されたのです。

また研究チームはその様子を示すため、原子をドット絵の“画素”に見立てて配置し、有名なシュレーディンガーの猫のシーンを“動画”として原子の配置変化で再現することにも成功しました。

なぜこの発明が「原子の世界の新しい時代」を切り開くと言われているのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年8月8日に『Physical Review Letters』にて発表されました。

AI-Enabled Parallel Assembly of Thousands of Defect-Free Neutral Atom Arrays https://doi.org/10.1103/2ym8-vs82

原子の世界で「シュレーディンガーの猫」が上映される

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Credit:AI-Enabled Parallel Assembly of Thousands of Defect-Free Neutral Atom Arrays

量子コンピュータは「量子ビット」をたくさん使って計算します。

量子ビットとして原子を使う方式は、同じ種類の原子なら性質がほぼ同一で扱いやすいという強みがあります。

原子は真空中でレーザーの力で「のピンセット」に捕まえることができます。

このピンセットを格子状や好きな形に並べると「原子配列」という計算の土台ができます。

ところが原子は確率的に捕まるため、用意した全ての場所に原子が入るとは限りません。

実験では平均でおよそ65%の場所にしか原子が入らず、残りは空席になります。

空席があると予定した回路が組めず、計算の品質が落ちてしまいます。

そこで空席に向けて原子を移動させ「欠陥ゼロ」の配列を作る工程が不可欠になります。

従来は原子を一つずつ運ぶ方法が主流でした。

このやり方だと原子の数が増えるほど手順が増え、準備時間がどんどん長くなります。

人数の多いクラスで席替えを先生が一人ずつ誘導すると時間がかかるのと同じです。

一度にまとめて動かそうとする試みもありましたが、計算が遅くなったり途中で原子が抜け落ちたりしやすいという課題がありました。

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Credit:AI-Enabled Parallel Assembly of Thousands of Defect-Free Neutral Atom Arrays

つまり「大規模に速く、しかも欠陥ゼロで並べる」という三つの条件を同時に満たすのが難しかったのです。

本研究は発想を「直列」から「並列」に切り替えます。

イメージとしては、全員が同時に一歩ずつ進んで所定の席に近づく方式です。

研究チームは、光のパターンを賢く設計して原子全体を同時に誘導することで、かかる時間を原子数にほぼ依らない水準に抑えることを目指しました。

その結果として、短時間で大きな原子配列を欠陥ゼロに近い状態へ整える「基盤技術」を確立することがこの研究の目的です。

この技術が実現すれば、量子コンピュータに必要な大量の高品質量子ビットを素早く用意でき、量子誤り訂正などの実装にも弾みがつきます。

また、配列の形を柔軟に変えられるため、量子シミュレーションなど他の応用にも広く役立ちます。

次ページ数千個の原子を同時に操る技術とは?

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