危険な廃リチウム電池を『自己リサイクル』させる方法を開発
危険な廃リチウム電池を『自己リサイクル』させる方法を開発 / Credit:Canva
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危険な廃リチウム電池を『自己リサイクル』させる方法を開発

2025.09.26 19:00:18 Friday

世の中には「捨てるに捨てられないゴミ」というものが存在します。

電気自動車などに使われるリチウム金属の廃材もその一つです。

使用済みのリチウム金属は水や湿気と触れると激しく反応して発熱し、時には煙を上げて燃えることもある危険な物質です。

現在はその高い反応性ゆえに安全に廃棄することもリサイクルすることも難しく、まるで扱い損ねた花火のように厄介者扱いされてきました。

しかし、アメリカのウースター工科大学(WPI)で行われた研究により、除光液などに含まれる身近な有機溶媒「アセトン」に、ごく微量の水を加えることで、この厄介なリチウム金属廃材を安全かつ簡単に有用な資源に変える方法が報告されました。

この条件下でリチウム金属は穏やかに反応を起こし、最終的に純度99.79%という高品質の炭酸リチウム(Li₂CO₃)として回収され、使用済みの危険な廃棄物を安全な電池材料へと再利用する道筋が示されました。

果たして、この画期的な自己駆動リサイクル技術は私たちの未来を変えることができるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年9月22日に『Joule』にて発表されました。

Self-driven aldol condensation enabling high-purity Li2CO3 recovery from spent lithium metal anodes https://doi.org/10.1016/j.joule.2025.102136

『安全上の負債』、使用済みリチウム電池が抱える深刻な問題

『安全上の負債』、使用済みリチウム電池が抱える深刻な問題
『安全上の負債』、使用済みリチウム電池が抱える深刻な問題 / Credit:Canva

リチウム金属は高性能な電池を支える救世主になり得る素材ですが、その反面、使い終わった後の安全な処理法が確立していないのが現状でした。

充放電を繰り返したリチウム金属の表面には、細長い針状の結晶「デンドライト(樹状突起)」が無数に伸びます。

このデンドライトは電池性能を低下させるだけでなく、内部でショートを引き起こし発火の原因にもなり得ます。

さらに困るのは、電池を廃棄・リサイクルしようとする際です。

使い終わったリチウム金属負極は非常に反応性が高く、空気中の湿気や水と激しく反応します。

言わば「安全上の負債」を抱えた危険物で、下手に手を出せば発火や爆発を招きかねませんし、かといってそのまま放置すれば空気中の湿気と反応していずれ発火するリスクがあります。

コラム:世界には何個のリチウム電池があるのか?

私たちが日常で使っているスマホ、ノートパソコン、電気自動車、電動自転車、さらには電動工具やバックアップ電源――これらすべてに使われているリチウム電池。その総数は、いったいどのくらいあるのでしょうか?スマホだけでも世界には70億台前後あるとされ、その多くがリチウムイオン電池を搭載しています。さらに、電気自動車(EV)の保有台数は5,000〜6,000万台規模。加えて、電動自転車(Eバイク)は世界で1〜3億台規模と推定されます。これらにパソコン・タブレット・電動工具・スマート機器などを加えると、日常利用中のリチウム電池の“稼働中個数”は80〜100億個程度になると見積もられます。さらに使われずに“引き出しで眠っているスマホ端末”などを含めると、総数はもっと膨らみます。業界推計ではこれを加えると120〜170億個規模に達する可能性も指摘されます。もちろんこれはあくまで概算であり、流通・廃棄・重複カウントなどの不確定要素によって増減しますが、私たちの生活と産業を支えるインフラとして、非常に巨大な“電池アーセナル(倉庫群)”が世界中に存在している、という実感は持てるはずです。

では、この使用済みリチウム金属を安全に処理・再利用する方法はあるのでしょうか?

従来から、水などの液体に浸してリチウムを中和する手法自体は考えられてきました。

しかし水と直接反応させる方法では、反応が激しすぎて発熱や可燃性の水素ガスが発生し、大量処理には向きません。

リチウム金属電池はこれから社会に広く普及すると見込まれていますが、そのリサイクル技術はいまだ手探りの段階でした。

そこでウースター工科大学(WPI)の研究チームは、この難題に対し「逆転の発想」とも言えるアプローチで挑みました。

「毒を以て毒を制す」といった考え方で、危険物であるリチウムの反応性そのものを逆手に取り、安全に処理できないかと考えたのです。

安全性と効率を両立し、使い終わったリチウム金属を丸ごと有用資源に変える――そんな都合のよい解決策は存在するのでしょうか?

次ページリチウム電池を『飼いならす』新技術、穏やかな反応の秘密

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