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毒を持って毒を制するワーム「Paralvinella hessleri」 / Credit:Wang H, et al., 2025, PLOS Biology, CC-BY 4.0
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【毒をもって毒を制す】ヒ素と硫化水素に耐える深海ワームの戦術とは?

2025.09.26 06:30:49 Friday

毒を持って毒を制する、そんな生物が深海に存在していました。

中国科学院海洋研究所(Institute of Oceanology, Chinese Academy of Sciences)の研究チームは、西太平洋の深海熱水噴出口という高温な領域に唯一生息する深海ワームについて報告しました。

この生物は、「Paralvinella hessleri」と名付けられており、環境中の猛毒を体内で安全な形に変えて生き延びていたのです。

この研究は2025年8月26日付の『PLOS Biology』誌に掲載されています。

Deep sea worm fights ‘poison with poison’ to survive high arsenic and sulfide levels https://www.eurekalert.org/news-releases/1095081
A deep-sea hydrothermal vent worm detoxifies arsenic and sulfur by intracellular biomineralization of orpiment (As2S3) https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3003291

極限の“死の環境”に生きるワーム、その秘密とは?

深海の熱水噴出口は、海底から高温で有害物質に富む流体が噴き出す、地球でも最も過酷な環境のひとつです。

そこには人間を含む多くの動物にとって致命的な物が大量に存在します。

たとえば、ヒ素(As)です。

ヒ素は、生物に対する毒性が強いことで有名であり、量によっては命を奪うことさえあります。

人においては急性中毒で、細胞のエネルギー産生が阻害され、嘔吐や下痢、心不全など様々なトラブルが起こります。

低濃度の暴露であってもそれが長期間にわたると、皮膚ガンや肺ガン、膀胱ガンのリスクが高まるのです。

日本では水道水中のヒ素基準が0.01mg/L以下と定められており、いかに微量でも危険であるかが分かります。

また、硫化水素(H₂S)も存在します。

これは「腐った卵の臭い」で知られる無の気体で、高濃度だと強烈な毒となります。

人間であれば短時間で、呼吸不全、意識喪失、死に至ることがあります。

つまり、ヒ素も硫化水素もそれぞれ単独で致命的な猛毒であり、両方が存在する熱水噴出口はまさに「二重の死の領域」と言えます。

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Paralvinella hessleri / Credit:Wang H, et al., 2025, PLOS Biology, CC-BY 4.0

しかし、この環境に適応して暮らしているのが深海ワーム「Paralvinella hessleri」です。

体長は数センチほどで鮮やかな黄色の体色を持ち、西太平洋の深海の噴出口に群れを作ります。

研究チームの測定では、このワームの組織に体重の約1%以上のヒ素や硫化物が蓄積していました。

通常ならば確実に死を招く状態です。なぜこのワームは耐えられるのでしょうか。

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