命のスタートライン「着床」とは何か
受精卵が卵管を通って子宮に到達すると、そこで最初に直面する大きな試練が「着床」です。
着床とは、受精卵(ヒト胚)が子宮内膜に潜り込み、母体と一体化して成長を始めるプロセスを指します。
これに失敗すると妊娠は成立せず、実際に自然流産の約60%はこの段階で起こるとされています。
つまり着床は、私たちが誕生するうえで避けては通れない生命の“関門”なのです。
これまでヒトの着床は顕微鏡下で静止画像を撮る程度にしか観察できず、リアルタイムでの記録は不可能でした。
子宮の奥深くで起きるため、超音波などの医療機器でも確認できるのは受精から数週間後です。
そのため科学者にとって、この瞬間は「闇の中の出来事(=ブラックボックス)」とされてきました。
そこでIBECの研究チームは今回、子宮内の環境を模倣する革新的な実験システムを開発しました。
コラーゲンを基盤とした人工マトリックスに受精卵を置き、リアルタイムで顕微鏡観察することで、着床時の力学的な動きや細胞の変化を詳細に記録することに成功したのです。
こちらが実際の動画。
前半はヒト胚の細胞の凝集過程を示し、後半は同じ胚が子宮内膜に侵入(着床)する様子を示している。
驚くべきことに、撮影された受精卵は「ただ静かに寄り添う」のではなく、子宮組織に力を加えて“ぐいぐい”と潜り込んでいく様子を示しました。
これは着床が「受け身の現象」ではなく、胚自身が積極的に環境を切り開きながら母体へと一体化していく“ダイナミックな力のドラマ”であることを示しています。