脂ぎった食事でマウスはうつ病のような状態になる

揚げ物、菓子パン、締めのラーメン。
食生活が乱れたとき、私たちが真っ先に気にするのは体重計の数字です。
しかし体重計には映らないもう一つの変化が、体の奥で静かに進んでいるかもしれません。
それは、気分の落ち込みです。
太っている人ほどうつ病を抱えやすいことは、疫学の世界では以前から知られていました。
けれど、その理由は意外なほど分かっていません。
太ったから動きづらくなって気分が沈むのか。
それとも、太ることと気分が沈むことの間には、もっと別の配線が隠れているのかは不明でした。
そこで今回研究者たちは、その原因をマウスを使った実験で調べることにしました。
調査に当たってはまず、生後3週のオスのマウスに、カロリーの60%が脂肪という極端な餌を与え続けました。
すると予想通りマウスは太り始め、やがて行動にも変化が起こりました。
マウスに甘い水と普通の水を並べて与えると、普通は好物の甘い水を好んで飲みます。
しかし脂肪食ばかり食べていたマウスは、甘い水を選ぶ割合が下がっていきました。
人間でいえば、好きだったことが楽しめなくなる状態です。
もう一つは「諦めずにもがく粘り強さ」の低下が起こりました。
マウスを足がつかない水槽に入れると、抜け出そうともがきますが、やがてもがくのをやめ、諦めたように浮いているだけになってしまいます。
そして脂肪食ばかり食べていたマウスでは、普通のマウスに比べて諦めている時間が長くなっていたのです。
そして三つ目が、「初対面の相手への興味の低下」でした。
初対面のマウスと顔なじみのマウスを並べると、普通のマウスは初対面のほうに強い興味を示します。ところが高脂肪食のマウスでは、その差が消えていました。
さらに研究では、興味深い時間差もみられました。
実は6週間の時点で、マウスはすでに太り、血糖値なども悪化していました。
それなのに、この時点では行動はまったく正常だったのです。変化が現れたのは、11週間を過ぎてからでした。
体の異常が先に完成し、行動の変化は、そのあとから遅れてやってきたことになります。
では何が原因で太ったマウスたちの心まで変わってしまったのでしょうか?
答えを得るため研究者たちはマウスの血液や大腸の中身を網羅的に分析しました。
すると体の中で炎症を起こす物質の材料になる脂肪酸「アラキドン酸」が大幅に増えていることがわかりました。
そこで研究者たちは、「アラキドン酸」の影響力を確かめるために、高脂肪食ではない通常のエサに、アラキドン酸だけを混ぜた特製のエサを用意し、別のマウスたちに8週間食べさせてみました。
結果、そのエサを食べたマウスたちは脂まみれの食事をとっていないにもかかわらず、甘い水を選ぶ割合が下がり、水中で諦めている時間が長くなる「うつに似た状態」になることがわかりました。
(※初対面の相手への興味の低下までは、アラキドン酸で起こせませんでした。これはアラキドン酸が主犯であるものの、全てを支配しているわけではないことを示します)
では、増えたアラキドン酸は、何をしているのでしょうか。
謎を解明するため研究者たちは高脂肪食を食べたマウスの脳を調べることにしました。
すると「脳の管理人」とも言うべき細胞(ミクログリア)に大きな変化が起きていることがわかりました。
この「脳の管理人」ミクログリアは、普段は静かに掃除をしています。
神経どうしのつなぎ目のうち、使われなくなったものを「食べて」片づけ、脳の中を整理整頓しておくのが仕事です。
ところが異常を察知すると、まわりに向かって「敵がいるぞ」と伝える炎症物質をまき散らします。
短期間なら、これは脳を守るための正しい反応です。
しかし警戒態勢が続くと、厄介なことが起こり始めます。
これまでの研究では、警戒状態が長引くと、掃除の手が止まらなくなり、本来なら残しておくべきつなぎ目まで刈り込んでしまうことが示されていました。
今回の研究においても、高脂肪食のマウスの脳では、まさにその警戒態勢が見つかりました。
判断や感情に関わる前頭前皮質と、記憶に関わる海馬の2つの場所で、ミクログリアの数そのものが増え、しかも「食べている最中」の目印(CD68)をつけた細胞まで増えていたのです。
さらに培養した神経細胞を使用した実験では、アラキドン酸で刺激したミクログリアから放出された成分には、神経を育て、つなぎ目を強くするための遺伝子(BDNFなど)の働きも弱める効果があることがわかりました。
暴れる管理人が残していった液に浸かるだけで、神経はつながりを保つ力を落としていったのです。
そこで研究者たちは、アラキドン酸に対抗する手段として、古くから頭痛をはじめとした鎮痛薬として使われてきたアスピリンに着目しました。






























