特化した目をもつ動物たち
遠くの微かな光も見える「ダイオウホウズキイカ」
深海に生息するダイオウホウズキイカ(学名:Mesonychoteuthis hamiltonia)は、ダイオウイカよりも体重が重く、「世界最大級の無脊髄動物」だと言われています。
そしてこの巨大イカの目は、サッカーボールほどの大きさで現存する最大のものです。
その大きさゆえ集光能力に優れており、遠く離れた場所のかすかな光でも検出できます。
例えば、マッコウクジラが移動すると微小な発光生物が押しのけられるため、クジラの後にはかすかな光の跡ができます。
ダイオウホウズキイカの巨大な目は、遠くからでもその光を感知可能。
これにより、イカの天敵であるマッコウクジラとの接近をさけられるのです。
左右に目が2つずつある「ブラウンスナウト・スポークフィッシュ」
ブラウンスナウト・スポークフィッシュ(学名:Dolichopteryx longipes)も非常に特殊な目をもっています。
通常、動物は左右に1つずつ目をもっています。
ところがブラウンスナウト・スポークフィッシュは左右に2つずつ目をもっています。
片方の目が上向きと下向きに分かれた構造になっているのです。
同時に上下両方を見ることができるため、深海でも形をはっきりと認識できると考えられています。
最強の視力「猛禽類」
最も鋭い視力をもっているのは猛禽類です。
細部まではっきりと見るには、目の中に多くの視細胞をもっている必要があります。
しかもそれだけでなく、得られた視覚情報を処理する能力が高くなければなりません。
その点、猛禽類は眼窩(がんか:眼球が収まる頭蓋骨のくぼみ)が深く、目の奥のくぼみに多くの視細胞が詰まっています。
例えばハヤブサは人間の2倍以上鋭い視力をもち、3km離れたウサギに目の焦点を合わせることが可能です。
可視光の外まで見える「アオスジアゲハとシャコ」
私たちが見る色は、どんな種類の視細胞をもっているかによって大きく影響を受けます。
そのため幅広いの種類の視細胞をもっている動物ほど、色覚に優れていると考えられます。
その点、人間は3種類の視細胞をもっており、イヌは2種類です。
そしてアオスジアゲハ(学名:Graphium sarpedon)は、少なくとも15種類の視細胞をもっており、そのうちの7種類は青と緑を捉えるのに特化しているとのこと。
研究者たちは、この圧倒的な特徴が、互いを追跡するのに役立つと考えています。
またシャコも16種類の視細胞をもっており、そのうち5種類は人間が見ることのできない紫外線を捉えることができます。
とはいえ、実験によってシャコが実際に識別できる色は限られていると判明しています。
複雑な視細胞がどのように利用されているのかは、まだ未解明な部分が多いのです。
動画が止まって見える優れた動体視力「昆虫」
昆虫は高い動体視力をもっています。
高い動体視力を得るには、光の変化を素早く感知する視細胞と、その情報を素早く処理する脳が必要だと言われており、人間と昆虫には大きな差があります。
例えば私たち人間が1秒間24コマの映画を見ると、スムーズな動画として楽しめます。
しかし昆虫には、動画がまるで「写真のスライドショー」のように見えるでしょう。
また動体視力がもたらす恩恵は、普段の生活で私たちがよく経験しています。
例えば、動体視力に優れたボクサーは、相手のパンチをよけることができます。
しかしハエにもなると、人間の10倍の速さで変化を感知。
ハエにとっては人間の動きなどスローモーションであり、それゆえ私たちのハエたたきはよく失敗します。
さて、いくつかの動物の目を紹介してきましたが、これらはそれぞれの分野で最も優れた視力をもっています。
しかし、総合優勝者はいません。
ある分野に特化した目もあれば、人間のようにいくつかの分野でほどほどの性能を発揮できる目もあります。
ひとまとめにして優劣をつけることなどできないのです。