冬眠は「自分で電源を落とす」技術

冬の朝、暖かい布団から出たくないという気持ちは、いっそ春まで眠っていたいという願いにまで育つことがあります。
人間の体はその願いを実行できませんが、シリアンハムスターはやってのけます。
冬眠に入るとこのハムスターの体温は、ふだんの35℃前後から5℃近くまで落ち、心臓も呼吸もゆっくりになり、そのまま2〜3日、深い休眠と呼ばれる状態を続けます。
ですがその状態がずっと続くのではありません。
半日ほど目を覚まして体を温め直すと、体温はまた5℃へ向かって落ちていきます。
これを何週間も繰り返すのが冬眠です。
不思議なのは、氷点近くまで冷えても細胞が壊れず、春になれば何ごともなかったように動き出すことです。
だからこそ、医療の世界はこの状態を欲しがってきました。
これまでの研究では、冬眠のあいだに体で何が起きているかが詳細に調べられてきましたが、肝心の開始メカニズムがわかりませんでした。
冬の合図が体に届いていることはわかっていても、それを受けて脳のどの神経細胞が引き金を引くのかは、空白のまま残されていたのです。
そこで今回研究者たちは、実験室でハムスターを冬眠させるところから始めました。
照明時間を秋のように短くし、そのあと室温を4〜5℃まで下げるのです。
するとおよそ7割のハムスターが本物の冬眠に入ることが確認されました。
次に研究者たちは、冬眠に入った直後のハムスターと、途中で目覚めたハムスターと、そもそも冬眠していないハムスターの脳を摘出し、脳の32か所で直前まで動いていた細胞を調べました。
すると深い休眠に入ったばかりのハムスターの脳では、視索前野(POA)と呼ばれる領域の一部において、神経細胞の14%が活性化していることがわかりました。
一方で、冬眠していないハムスターの脳では、活性化率は1%にも届きませんでした。
ただこの段階では、活性化の比較しかできていません。
その部分が本当に冬眠開始に必須かは、実際に活動を制御してみないとわかりません。
そこでチームは、制御のための道具そのものを作ることにしました。
手がかりになったのは、冬眠中に働いていた細胞のおよそ半数が持っていた「Samd3」という目印です。
この目印のすぐ隣にあるDNA配列をたよりに、狙った細胞にほぼ限って荷物を届ける運び屋ウイルスを、チームは新しく設計しました。
届ける荷物は、薬を投与したときだけ細胞を強制的に働かせる仕掛けと、逆に黙らせる仕掛けです。
つまり、冬眠中のハムスターの脳のごく一部だけを、外から押したり切ったりできるようになったわけです。
結果、黙らせるほうを冬眠中のハムスターに使うと、ハムスターはなかなか深い休眠に戻ってこなくなりました。
12匹のうち7匹は、薬を与えた6日間ずっと体温が高いままだったのです。
興奮させたときの変化は、もっと劇的でした。
ハムスターの体温はほどなく下がり始め、最低13.9℃に到達します。
低い体温は平均57時間、つまり丸2日を超えて保たれました。
自然の冬眠が5.5℃前後まで下がることを考えれば、人工のスイッチが作る眠りはまだ浅いものです。
それでも、薬を一度与えただけで、ハムスターは巣の中で体を丸め、ほとんど動かず、自然の冬眠のときと同じ姿になりました。
しかも配達便が広く行き渡った個体ほど、体温は深いところまで落ちていました。
研究者たちは冬眠の入り口を担う神経細胞が突き止められたのは、これが初めてだと述べています。































