冬眠しない動物にも、同じスイッチが残っていた

押せば冬眠の入り口が開く細胞は、こうして見つかりました。
次に気になるのは、そのスイッチの出どころです。
何週間ものあいだ、体温を5℃まで落としては戻すことをくり返して冬を越す離れ業をこなす動物なのだから、その脳には冬眠のための専用の細胞が積まれている——調べる前は、そう考えるのが自然でした。
そこで研究者たちは、冬眠する派であるハムスターの脳から視索前野を摘出して、神経細胞を1個ずつ、どの遺伝子が使われているかで種類分けしていきました。
そそて、できあがった一覧を、冬眠しない派であるマウスの既知の情報と突き合わせれば、冬眠する動物だけが持つ特別な細胞が浮かび上がるはずでした。
ところが、そんな細胞は一つも見つかりませんでした。
見つかった26種類の神経細胞はすべてマウスにもあり、その割合までほとんど同じだったのです。
少なくとも冬眠のスイッチがある場所には、冬眠する動物だけの専用装置は積まれていなかったのです。
実際、研究チームが8℃の部屋でマウスの同じ神経細胞を興奮させると、体温はやはり下がりました。
下がり幅はハムスターに及びませんが、スイッチそのものは反応しています。
冬眠しないサルであるマーモセットでも、公開されている脳の遺伝子地図をたどると、休眠に関わる神経細胞の目印を持つ細胞が、対応する場所に見つかります。
研究を率いたシニシャ・フルヴァティン氏は、この神経細胞群を、初期の温血動物が体温維持のコストを切り下げるために使っていた「オフスイッチ」の名残だと見ています。
祖先が使っていたスイッチに、限りなく近いものだというのです。
これらの予測が正しければ、冬眠に入るかどうかを分けているのは、冬眠に必須な仕組みを持っているかどうかではなく、そのスイッチに冬の合図が届くか、そして押した先の体がどこまで従うか、という違いだということになります。
もし将来的に、人の体で同じスイッチを押せるようになれば、移植を待つ臓器や、その臓器を待つ患者の時間をかせぐ医療への応用や、長期の宇宙旅行への利用も可能になるかもしれません。































