アスピリンでマウスのうつ病のような状態が改善した

研究者がアスピリンに目をつけたのには、理由がありました。
実はアラキドン酸は、鎮痛薬にとって古い馴染みの相手だったからです。
そしてアスピリンが痛みを抑えるのは、このアラキドン酸を痛みの物質へと加工する酵素を止めるからであることが知られていました。
1971年に示されたこの発見を含む一連の研究は、1982年のノーベル生理学・医学賞につながりました。
もしアラキドン酸から始まる炎症の連鎖が本当にうつのような状態の原因なら、その連鎖を薬で断てば行動は改善するはずです。
そこで研究者たちは、高脂肪食で11週間育てたオスマウスに、高脂肪食を続けたままアスピリンを8週間投与し続けました。
結果、甘い水を選ぶ割合は再び上がり、水中で諦めている時間も短くなり、初対面の相手への興味も戻ってきたことがわかりました
加えて、脳のミクログリアの数も「食べている最中」の目印をつけた細胞も減り、血中のアラキドン酸の量も低下していました。
驚くべきことに、この間に「体重、体脂肪量、血糖値、コレステロール値」は、どれも有意な変化は起きていませんでした。
それでも、うつのような三つの変化がが、三つとも改善したのです。
この毛結果は、太ることと気分が沈むことは、高脂肪食という一本の火から立ち上がった別々の煙だったことになります。
だから肥満を消さなくても、うつのような状態だけを鎮めることができたのです。
ただし、今回の研究結果はあくまでマウスを対象にしたもので、ヒトの臨床試験の結果ではありません。
そして重要な点として、普通のエサを食べていたマウスにアスピリンを与えても、これらの行動は変わりませんでした。
少なくともマウス実験では、アスピリンは気分を上げる薬ではなく、下がったものを元に戻す働きをしたことになります。
コラム:うつ病とアスピリン
アスピリンとうつ症状の関係については、ヒト研究でも結果が一枚岩ではありません。
今回の論文でも、抗炎症薬やアスピリンの抗うつ効果した報告がある一方で、アスピリンの有効性を認めなかった研究もある、とかなり慎重に書いています。
たとえば2019年に発表された系統的レビューでは、3件のコホート研究を統合したところ、まだうつ病ではない段階でアスピリンを服用していた人のほうが、その後にうつ病または抑うつ症状を示すリスクが低い、という関連が報告されました(Ng et al., Brain Sciences, 2019)。
一方、2020年に発表された健康な高齢者1万9114人を対象とする大規模ランダム化比較試験では、低用量アスピリン群とプラセボ群の間に、抑うつ症状の新規発生率の有意な差は認められませんでした(Berk et al., JAMA Psychiatry, 2020)。
さらに、すでに抑うつ症状があった高齢者1879人を対象にした2021年の別解析では、アスピリン群で抑うつ症状スコアがむしろわずかに上昇し悪化したことが報告されています(Berk et al., Molecular Psychiatry, 2021)。
このように現時点では人間においてアスピリンを「飲めば気分が良くなる」「うつ病を予防できる」と言える段階ではないことがわかります。
(※今回のマウス研究を根拠にアスピリンを自己判断で使用するのは絶対にやめてください)






























