キスの起源、自分は上流だ、ゴキブリのミルク結晶
生物「力学」賞 ――キスの起源は約2100万年前の共通祖先までさかのぼる

生物力学賞は、人間や動物のキスに共通の定義を与えた研究に贈られました。
受賞したのは、英国のオックスフォード大学(Oxford)のマチルダ・ブリンドル氏ら3人です。
キスは人間に特有の行為に思えますが、論文によれば、大型類人猿の大半をはじめ、動物界のあちこちで観察されています。
そこで研究チームは、種ごとの「キスをする・しない」をサルや類人猿の系統樹に書き込み、共通の祖先がどうだったかを逆算しました。
家系図をたどって、会ったことのない先祖の暮らしぶりを推理するようなやり方です。
その結果、キスは大型類人猿の共通祖先において、約2,150万〜1,690万年前に最初に進化したと推定されました。
私たちがキスをするのは、人間になるよりずっと前から続いている習慣だ、ということになります。
(※なおこの研究については過去にこちらに記事になっています)
さらに驚くのは、絶滅したネアンデルタール人もキスをしていた確率が、約84%と見積もられたことです。
この84%は系統樹からの逆算ですが、論文は別の手がかりとして、口の中の微生物も挙げています。
ヒトとネアンデルタール人が分かれたのはおよそ45万〜75万年前ですが、両者が共有する口の中の微生物の系統が分かれたのは、およそ11万〜14万年前です。
つまり枝分かれのあとも長く、キスや食べ物の共有によって、口の中の微生物がやりとりされていた可能性があります。
ブリンドル氏は、「動物がキスをすること、そして霊長類でいつ進化しえたかを示しました。次の明白なステップは、その理由を理解することです」と述べています。
研究の詳細は学術誌『Evolution and Human Behavior』(47巻、論文番号106788)に掲載されています。
経済学賞 ―― 「自分は上流だ」と感じた人ほど、子ども用の菓子に手を出した

経済学賞は、「上流階級の人ほど子ども用の菓子を横取りしやすく、ほかの非倫理的な行動にも及びやすいという証拠を集めた」研究に贈られました。
受賞したのは、論文発表当時、米国のカリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)に所属していたポール・ピフ氏ら5人です。
2012年に発表されたこの論文は、路上での観察と実験室での課題を組み合わせた7つの研究からできています。
たとえば道路での車の動きを調べた調査では、高級な車ほど交差点での割り込みが多く、横断歩道付近でも、歩行者に道を譲る傾向が低くなっていました。
ほかにも、交渉で嘘をつく、サイコロゲームで不正をする、職場での非倫理的な行動を容認するといった傾向が、社会階層の高い人ほど強いという結果が報告されています。
さらに目玉である「子どもの菓子」の研究では、実際の収入や暮らしぶりを変えなくても、「自分は上か下か」という感覚を一時的に動かすだけで、取る菓子の数に差が出ることが示されました。
参加したのは大学生129人で、お金や学歴、職業の社会的な評価を段にした「社会のはしご」を思い浮かべ、そのいちばん上、またはいちばん下にいる人と自分を比べてもらいました。
たとえば営業マンなら、自分よりはるかに稼ぎがよく、地位も高い人と比べるか、反対に稼ぎや地位が低い人と比べるようなものです。
こうすることで上側と自分を比べた人は「自分は下」という感覚を、また下側と比べさせられた人は「自分は上」という感覚を持つことになります。
そうしておいて「隣の研究室の子どもたちのため」と説明された菓子の瓶からお菓子をとっていいと言われたときの個数が調べられました。
すると取った個数は、「上」の感覚を持たされた群が平均1.17個、「下」の群が平均0.60個で、約2倍の差がありました。
こうした行動が生まれる理由として研究チームが挙げたのは、「貪欲は良いことだ」という考え方です。
社会階層が高いほど貪欲を肯定する傾向があり、それが不正への抵抗感を下げている、という説明です。
裏づけもあります。
「貪欲は良いことだ」と先に意識させておくと、社会階層の低い人も、高い人と同じ水準まで職場の不正を容認したのです。
つまり、財布の中身が同じでも、貪欲をどう考えるかで行動は変わる、というのが研究チームの見立てでした。
研究の詳細は2012年に学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されています。
化学賞 ―― ゴキブリの「ミルク」の結晶は、同じ重さの牛乳の3倍を超えるエネルギーを持つ

化学賞は、胎生のゴキブリが子どもに与える「ミルク」からできる結晶の構造と、高い栄養価を明らかにした研究に贈られました。
受賞したのは、論文発表当時、インドの幹細胞生物学・再生医療研究所(inStem)に所属していたサンチャリ・バネルジー氏ら11人で、日本の高エネルギー加速器研究機構も参加しています。
2016年に発表されたこの論文が対象にしたのは、Diploptera punctata(ディプロプテラ・プンクタータ)という種のゴキブリです。
多くのゴキブリは卵を体の外に産みますが、この種は、知られている限り唯一の「胎生」のゴキブリです。
母親は体内の子どもに栄養豊富な「ミルク」を与えて育て、生きた幼虫を産みます。
驚くのはその先で、飲んだミルクに含まれるタンパク質が、子どもの腸の中で結晶になります。
研究チームがこの結晶を取り出して調べると、タンパク質だけでなく糖と脂肪酸も抱え込んだ、密度の高い構造をしていました。
そして研究チームは、成分の重さから計算して、この結晶が「同じ質量の牛乳の3倍を超えるエネルギー」を含むと推定しました。
生まれる前の子どもが、栄養の詰まった固形の弁当を腸の中に持っている、ということになります。
しかも、生きた体の中で自然にできた結晶を原子レベルで解析できた例はほとんどなく、その点でも注目されました。
研究の詳細は2016年に学術誌『IUCrJ』に掲載されています。


























