正しい鼻のかみ方、ヘビに噛まれやすい踏み方
医学賞 ―― 「正しい鼻のかみ方」は、1977年に日本で計測されていた

医学賞は、鼻のかみ方を計測した研究に贈られ、旭川医科大学の名誉教授だった故・海野徳二氏が受賞しました。
鼻をかむのは誰もが子どものころに覚える動作ですが、それを実際に測った研究は、ほとんどありませんでした。
海野氏は男性15人の鼻をかむ息を計測し、片側でかんだときの速さが、最も速い瞬間で平均して毎秒1.81リットルであることを示しました。
両側を同時にかめば毎秒2.97リットルまで上がりますが、それでも論文が勧めるのは片側ずつです。
理由は、左右の鼻の通りやすさが違うからです。
通りの良い側の鼻の穴を押さえると、通りの悪い側に強い気流が集まります。
ある被験者では、両側の鼻から強く息を吐いても最大で毎秒0.3リットルしか流れなかった側が、反対側を押さえてかむと毎秒1.5リットルまで上がりました。
そして息の勢いが速いほど、鼻の中の分泌物(鼻水)を効率よく押し出せる、というのが論文の考えです。
気になるのは耳への影響です。
片側でかんだ60回のうち31回で外耳道(耳の穴)の圧力が上がりましたが、鼻から息を徐々に強く吐く測定でも30回中15回で上がっていました。
論文は、この圧力の変化が中耳に急性の感染を起こすことはふつうはない、と述べています。
当時の論文が結論として勧めたのは、片側ずつ、力を入れて、かむ前に少し息を吸い、時間をかけてかむことでした。
半世紀近く前の男性15人を対象にした研究ですが、何気ない動作を測って見直すという発想が光ります。
研究の詳細は1977年に学術誌『日本耳鼻咽喉科学会会報』(80巻1号)に掲載されています。
なお授賞式には、海野氏と同じ旭川医科大学の高原幹氏が代理で出席しました。
高原氏は「海野先生は当たり前のことに真摯に向き合い、科学的解明に取り組んだ」と振り返っています。
生物学賞 ―― 毒ヘビ116匹で調べた「咬まれやすい条件」

毒ヘビに咬まれる事故は、世界で数百万人に影響を及ぼしているとされます。
生物学賞は、「毒ヘビが人を咬む条件を知るために、さまざまな毒ヘビのさまざまな部位を、さまざまな気温と時刻で、繰り返しそっと踏んだ」研究に贈られました。
受賞したのは、ブラジルのブタンタン研究所のジョアン・ミゲル・アルベス=ヌネス氏ら6人です。
研究チームは、ヘビの毒や血清ではなく、「ヘビがいつ咬むのか」という行動そのものに注目しました。
対象は、ブラジルで医療上とくに重要とされるマムシの仲間、ジャララカ(Bothrops jararaca)116匹です。
防護ブーツを履いた研究者が、頭、胴の中央、尾を柔らかく踏み分けました。
1回のテストでは、頭・胴・尾に10回ずつ、計30回の刺激を与えました。
体に触れずに足を近づける条件も試しています。
撤回前の論文は、ヘビが踏まれた場所によって、咬む確率が大きく違ったと報告しました。
頭を踏まれたときに咬む確率は約44%で、胴の約20%、尾の約11%を大きく上回りました。
さらに、生後まもない個体は成体の2.17倍咬みやすく、雌は体温が高いほど咬みやすい傾向がありました。
小さい個体ほど危なくない、とは限らないわけです。
論文は2024年5月3日付で学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。
ところが、この論文は掲載誌によって、2025年2月11日に撤回されています。
撤回通知が理由に挙げたのは、データの捏造や解析ミスではなく、動物実験の事前承認の問題でした。
動物を使う研究では、どの動物にどんな操作をするかを事前に申請し、委員会の承認を得ておく必要があります。
著者らによると、承認されていたのは、金属のかぎ棒でヘビの体を地面に押さえる方法と、ブーツを履いた足を近づける方法でした。
ところが、かぎ棒はヘビの口を傷つける恐れがあるとわかり、ヘビを守る緩衝材を入れたブーツで柔らかく踏む方法に変えたといいます。
しかし掲載誌は、柔らかく踏む方法と、生後まもないヘビの使用が倫理委員会の承認に含まれていなかったとして、論文を撤回しました。
著者6人は全員、この撤回に反対しています。


























