敵に意地悪な友人、パンツを埋めて2か月
平和賞 ―― 私たちは時に「敵に意地悪な友人」を好む

グリッティは、米国フィラデルフィアのアイスホッケーチームの「醜いマスコット」として知られています。
地元の人々はグリッティの醜さを笑っていました。
しかし、よそ者がグリッティの醜さを笑い始めると、空気が変わりました。
それまでグリッティを笑っていた地元の人々が、いっせいに擁護に回ったのです。
2018年、フィラデルフィアの市議会もそれに応じるように、「グリッティは醜い怪物かもしれない。しかし、われわれの醜い怪物だ」という一節を含む決議を採択しました。
この一節を冒頭に掲げた研究が、平和賞を受賞しました。
受賞したのは、ジェイミー・アローナ・クレムス氏ら5人の研究チームで、論文発表時の所属は米国のオクラホマ州立大学などです。
受賞理由は、「私たちは、自分が嫌っている相手に対して、意地悪にふるまう友人を高く評価する」ことを記録したことです。
平和賞としては皮肉が効いている内容ですが、研究から得られる知見は人間の心理を深く暴いています。
理想の友人を尋ねられれば、多くの人は「親切で信頼できる人」と答えるでしょう。
けれども、友人が自分ではなく、自分の嫌いな相手にどう接するかまで考えると、好みは少し複雑になるようです。
研究チームは、米国とインドの参加者計1,183人を対象に6つの研究を行い、理想の同性の親友に、親切さ、信頼性、意地悪さ、無関心さなどをどの程度求めるかを調べました。
そのうちの一つでは、米国の成人268人を3群に分け、同性の「理想の親友」が自分・見知らぬ人・自分の敵のいずれかに、どうふるまってほしいかを7段階で尋ねました。
この尺度では、4が「平均的な同性の人と同じ程度」を意味します。
結果、「自分に親切であってほしい」の平均は5.54、「自分に意地悪であってほしい」は1.18でした。
一方、友人が自分の敵にどうふるまってほしいかについては、「無関心でいてほしい」が4.21、「意地悪にしてほしい」が3.73、「誠実であってほしい」が3.28、「親切にしてほしい」が3.11となっていました。
つまり誰かにとっての理想の同性の友人とは聖人君子ではなく、「自分には協力的で、自分と対立する相手には厳しい」ということが見えてしまったのです。
友情は二人だけで完結せず、周囲との対立や連帯を含む小さな社会関係でもあることを、少々物騒な形で映し出した研究です。
研究の詳細は2023年に学術誌『Evolution and Human Behavior』(44巻2号)に掲載されています。
土壌科学賞 ―― パンツを埋めて2か月、土の「元気」がわかった

土壌科学賞は、スイスの約1,000地点に綿のパンツを埋め、その分解具合から土の状態を調べた研究に贈られました。
受賞したのは、スイスの農業研究機関アグロスコープのフランツ・ベンダー氏と、チューリッヒ大学(UZH)のマルセル・ファン・デル・ハイデン氏ら4人です。
土が健康かどうかは、見ただけではわかりません。
そこで研究チームが指標に選んだのが、綿のパンツでした。
土の中の生き物が活発なほど、綿は速く分解されます。
つまり、掘り出したパンツがぼろぼろになっているほど、その土の生き物が元気だということです。
2021年に始まった市民参加型のプロジェクトでは、約1,000人のボランティアが1人2枚のパンツを土に埋め、1枚目を1か月後、2枚目を2か月後に掘り出しました。
埋められたのは、スイス全土の約1,000地点、パンツにして2,000枚を超えました。
あわせて、土の分解の速さをはかる道具として以前から使われているティーバッグも、12,000個が埋められました。
その後、パンツは掘り起こされて写真に撮られ、土壌の試料とともに研究室へ送りました。
結果、2か月後の分解率が最も高かったのは個人の庭で約58%、次いで耕地が約51%、永年草地が約47%、芝生が約40%でした。
研究者らはこれを、土の分解活動を直感的に示す「パンツ指数」として提案しています。
ファン・デル・ハイデン氏は、「健康で生物学的に活発な土壌は、肥沃さ、養分の循環、多くの生態系サービス(自然が人にもたらす恵み)にとって極めて重要です」と述べています。
ただし、パンツの分解の速さが示すのは、あくまで土の中の生き物の活発さです。
ベンダー氏は「最大限の分解が、すべての生態系で望ましいわけではありません」とも述べ、森や庭で養分が非常に多い場合は、バランスの崩れを示す兆候だと説明しています。
受賞対象となったのは、2025年2月に学術誌『Science』の読者投稿欄(Letter)に載った、1ページの短い報告です。
受賞者には、この報告の著者である2人のほか、アトラント・ビエリ氏とピア・ビビアニ氏が加わっています。
プロジェクト全体の結果は、2026年8月24日付で学術誌『Plants, People, Planet』に発表されました。
この論文には、約240人の市民科学者が共著者として名を連ねています。
おわりに:10の研究に共通していたのは「身近さ」だった
10の研究に共通するのは、見過ごされてきた身近な現象を、まじめに調べ直した点です。
鼻をかむのはありふれた動作ですが、その空気の流れまで気にする機会は、なかなかありません。
男性用の小便器は100年以上も形がほとんど変わらないまま、尿を跳ね返し続けてきました。
どちらも、日常にありふれた動作や道具を、改めて科学の目で見直した研究です。
使われた道具も、特別なものばかりではありませんでした。
綿のパンツは土の元気さをはかる物差しになり、死んだ蚊の口は3Dプリンターのノズルになりました。
そして出てきた答えは、しばしば私たちの直感を裏切ります。
友人への期待を調べた実験では、敵に対して「意地悪でいてほしい」よりも、「無関心でいてほしい」の点数が高くなっていました。
親たちが評価したわが子の匂いは、思春期を過ぎると、配偶者や恋人の匂いと同じくらいの位置に落ち着いていました。
来年、どこかの街で笑いと拍手を浴びる研究も、誰かが「なぜだろう」と首をかしげた、ごく身近な疑問から始まるのかもしれません。
参考文献
A comparative approach to the evolution of kissing
Higher social class predicts increased unethical behavior
RETRACTED ARTICLE: Study of defensive behavior of a venomous snake as a new approach to understand snakebite(撤回済み/撤回通知)
3D necroprinting: Leveraging biotic material as the nozzle for 3D printing
Assessing soil health with underpants(受賞対象)
Soil Health Assessment Using Buried Cotton Underpants…(全体の結果)


























