「キスの起源」から「パンツ埋め実験」まで――2026年イグノーベル賞、全10部門の受賞研究
「キスの起源」から「パンツ埋め実験」まで――2026年イグノーベル賞、全10部門の受賞研究 / Credit:Canva . 川勝康弘
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「キスの起源」から「パンツ埋め実験」まで――2026年イグノーベル賞、全10部門の受賞研究 (3/4)

2026.09.06 21:30:24 Sunday

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小便器の跳ね返り、死んだ蚊の口、子供の匂い

物理学賞 ―― 小便器の跳ね返りを抑える鍵は「30度」

物理学賞 ―― 小便器の跳ね返りを抑える鍵は「30度」
物理学賞 ―― 小便器の跳ね返りを抑える鍵は「30度」 / Credit:Canva . 川勝康弘

物理学賞は、「跳ね返りのない小便器を設計しようとした理論と実験の試み」に贈られました。

受賞対象の論文は、カナダのウォータールー大学と米国のウェーバー州立大学の研究チームによるものです。

男性用の小便器は100年以上、形がほとんど変わらず、尿は跳ね返って床と使用者を汚してきました。

論文によれば、小便器の周囲の床のアンモニア濃度は、通常の便器の周囲の約100倍にもなります。

研究チームが実験で突き止めたのは、跳ね返りを左右する最大の要因は勢いでも量でもなく、「流れが壁に当たる角度」だということでした。

角度が約30度を下回ると、跳ね返りはぐっと減ります。

つまり、使う人が狙いに気を使わなくても、便器の形で解決できる問題だったわけです。

そこで研究チームは、流れが常に約30度以下で壁に当たるような曲面を、計算で設計しました。

生まれたのが、豊穣の角(穀物や果物があふれ出る角の形の飾り)に似た「コルヌコピア」と、オウムガイに似た「ノーチラス」という2つの小便器です。

従来の小便器がとくに跳ねるのは、流れの勢いが弱いときと強いときです。

この2つの条件で、ノーチラスは跳ね返りをそれぞれ85%、95%減らしました。

また論文では、新しい設計によって、跳ね返りを市販の一般的な小便器の1.4%まで、つまり98.6%減らせたとも報告しています。

(※なおこの研究については過去にこちらに記事になっています)

おしっこの飛び散りを「50分の1」にする新型小便器を開発!

「絶対に一滴も跳ねない小便器」ではありませんが、数がそろえば効果は大きいと研究チームは見積もっています。

たとえば米国の非住宅施設だけでも、5,600万台を超える小便器があるとされています。

論文によれば、そこから床に飛び散る尿は1日あたり100万リットル規模で、すべてノーチラスに置き換えれば、その大半を防げるといいます。

さらに、飛び散った尿の10倍の水で掃除すると見込み、清掃に使う真水も1日最大1,000万リットル節約できると研究チームは推定しています。

ただし、これは試作品に水を流した実験で、実際の尿で確かめたものではありません。

研究の詳細は2025年4月に学術誌『PNAS Nexus』に掲載されています。

研究を率いたウォータールー大学のジャオ・パン氏は、論文に先立つ2022年、この設計プロジェクトを「私が思いつく限り最良の教材」と呼びました。

日常生活の問題でありながら、流体力学から工業デザインまで多くの話題を含んでいる、というのがその理由です。

技術賞 ―― 死んだ蚊の口が、市販の針より細い3Dプリンターのノズルになった

技術賞 ―― 死んだ蚊の口が、市販の針より細い3Dプリンターのノズルになった
技術賞 ―― 死んだ蚊の口が、市販の針より細い3Dプリンターのノズルになった / Credit:Canva . 川勝康弘

技術賞は、蚊の口吻を高解像度3Dプリンターのノズルとして使う「ネクロプリンティング」という手法を切り開いた研究に贈られました。

受賞したのは、カナダのマギル大学(McGill)のチャンホン・ツァオ氏やジエンユー・リー氏ら12人です。

材料をノズルから押し出す方式の3Dプリンターでは、細いノズルが細かな造形の鍵になります。

研究チームが比較した市販の最細級の金属ノズルは36ゲージ(針の太さの規格)で、内径は約35マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリの1,000分の1)でした。

論文によると、価格は1本80ドルを超えます。

そこで研究者たちは、蚊が血を吸うための口に目をつけました。

蚊の口吻(こうふん)は内径が約20〜25マイクロメートルと市販の針より細く、しかも壁の厚さは1マイクロメートル未満です。

研究チームは冷凍した雌のネッタイシマカから口吻を取り出し、樹脂で固めて針の先に取り付け、そのままノズルとして使ってみました。

すると蚊の口から押し出された線の幅は18〜28マイクロメートルで、1ミリの約50分の1という細さでした。

市販の36ゲージの針に比べて、線の幅をおよそ半分にできると論文は述べています。

コストの面でも、蚊1匹は0.02ドル未満、組み立て済みのノズルでも約0.8ドルと、36ゲージの針の100分の1程度です。

ただし、生き物の材料であるため、寿命には限りがあります。

常温では少なくとも9日間は機能しましたが、14日目には30%が故障し、マイナス20度で保存した場合は1年後も使えました。

ツァオ氏は、「圧力が安全な範囲にとどまる限り、蚊の口吻は繰り返しの印刷に耐えることがわかりました」と述べています。

研究の詳細は2025年11月19日付で学術誌『Science Advances』に掲載されています。

嗅覚賞 ―― 親が子の匂いを快く感じる割合は、思春期を過ぎるとパートナーと同じ水準まで下がった

嗅覚賞 ―― 親が子の匂いを快く感じる割合は、思春期を過ぎるとパートナーと同じ水準まで下がった
嗅覚賞 ―― 親が子の匂いを快く感じる割合は、思春期を過ぎるとパートナーと同じ水準まで下がった / Credit:Canva . 川勝康弘

嗅覚賞は、「赤ちゃんは親にとってすばらしい匂いがするが、10代の子どもはそうではないという証拠を集めた」研究に贈られました。

受賞したのは、ドイツのイエナ大学のイローナ・クロイ氏と、ドレスデン工科大学やポーランドのヴロツワフ大学の研究者ら4人です。

研究チームは、ポーランドの親235人に、子ども367人の普段の匂いを思い浮かべながら、質問紙で評価してもらいました。

子どもの匂いを「快い」または「とても快い」と答えた親の割合は、乳幼児(4歳未満)で93.7%、思春期(9〜14歳)で83.8%、思春期後(14歳超)では75.2%でした。

思春期後の子どもの75.2%という値は、同じ親たちが自分のパートナー(配偶者や恋人)の体臭について、心地よいと答えた数値76.7%とほぼ同じです。

この調査では、思春期を過ぎたわが子の匂いの評価は、配偶者や恋人の匂いと同じくらいの位置に落ち着いていたのです。

一方、母親か父親か、息子か娘かによる差は見られませんでした。

ここで浮かぶのが、「近親交配(血縁の近い者どうしの生殖)を避けるために、思春期の子どもの匂いは親に不快になる」という仮説です。

もしそうなら、母と息子、父と娘といった組み合わせで評価がとくに下がるはずですが、そうした差は出ませんでした。

研究チームは代わりに、思春期に性ホルモンの変化で体臭の成分そのものが変わることを、理由の一つに挙げています。

研究の詳細は2017年に学術誌『Chemosensory Perception』(10巻3号)に掲載されています。

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