多細胞生物の起源は「遺伝子」より「物理」だった――「非対称開始仮説」が提唱
多細胞生物の起源は「遺伝子」より「物理」だった――「非対称開始仮説」が提唱 / Credit:Canva
biology

多細胞生物の起源は「遺伝子」より「物理」だった――「非対称開始仮説」が提唱 (3/3)

2026.06.11 17:00:52 Thursday

前ページ生命の形も遺伝だけでなく物理が効いていた

<

1

2

3

>

物理の力で生命を設計する

物理の力で生命を設計する
物理の力で生命を設計する / Credit:Canva

今回の研究により、物理法則を手がかりに生命の形を設計するという道筋が見えてきました。

論文が最終的に描くのは、自己組織化の法則を「臓器を作るためのレシピ」に変えるというビジョンです。

体の中で空洞・折り畳み・枝分かれが物理法則どおりに起きるなら、その物理を試験管の中で意図的に再現してやれば、組織や臓器のモデルを、より狙い通りに組み上げられるかもしれない。すでにそのための道具立ては着々と揃いつつあります。

たとえば細胞を置く場所の形を決める「型」(マイクロパターニング)、周囲の硬さを自由に変えられるゼリー状の足場(ハイドロゲル)、栄養や酸素を細い管で送りつつ細胞同士の会話を再現できる小さなチップ(臓器チップ)、そして異なる種類の幹細胞を3次元的に並べていく細胞用プリンター(3Dバイオプリンティング)などを「物理の条件を細かく指定できる装置」として使用する方法が考えられています。

2025年の古細菌の仲間を押しつぶす実験が単純な「物理」だとしたら、これらは細かく制御を行う複雑な「物理」と言えます。

なかでも注目されているのが、妊娠の最初の場面を再現する研究です。これまで子宮は、受精卵が偶然たどり着くのを待つ「受け身の器」のように考えられがちでした。

しかし最近の研究では、子宮の側も胚に向かって積極的に信号を送り、迎え入れる準備を整える「能動的なパートナー」だとわかってきました。

胚と子宮の「対話」のどこがうまくいっていないのかを「物理」という視点で解き明かすことができれば、将来的には、不妊治療でなかなか着床に至らない原因を、これまでより一段細かいレベルで調べられる可能性があります。

物理法則は「どんな形が可能か」という下書きを用意し、遺伝子は細胞に「何になれるか」という能力を与え、そして細胞どうしの絶え間ない交渉が、その経路をリアルタイムで微調整していきます。

空洞、折り畳み、枝分かれ、接着、張力、拡散――一見ばらばらでシンプルなルールが幾重にも層を成し、そこから37兆個の精巧な建築が立ち上がっているのです。

物理法則という揺るがぬ制約があるおかげで、遺伝子はすべてを書き下す必要から解放されました。

そして書ききれないものが物理に肩代わりされているからこそ、生命は少ない情報量で複雑な形を実現でき、多少のブレにも動じない頑健さを保てているのです。

これは、17文字という厳しい制約があるからこそ俳句が無限の表現を生み出すのと、よく似ています。

決められた枠があるからこそ、かえって豊かなものが立ち上がる。

生命もまた、物理という枠を味方につけることで、わずかな指示から驚くほど複雑な体を組み上げているのです。

<

1

2

3

>

コメントを書く

※コメントは管理者の確認後に表示されます。

0 / 1000

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

生物学のニュースbiology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!