あなたの「虫嫌い」は本当に”文化のせい”なのか?

世界に目を向ければ、数億人もの人々が日常的に昆虫を食べています。
国連食糧農業機関(FAO)が食用に分類する昆虫は1,611種にのぼり、人口増加と気候危機を前に、環境負荷の低い昆虫は「未来のタンパク源」として推奨されています。
理屈の上では、昆虫食は理にかなった選択肢なのです。
それなのに、少なくない人々が虫を食べることにどうしても抵抗を感じてしまいます。
特に西洋社会では昆虫食への抵抗が強いことが知られており、その理由は長年「文化」で説明されてきました。
だとするなら文化が花開くより遥か昔のヨーロッパ人は、文化の影響を受けずに虫を食べていたのでしょうか?
答えを得るため研究チームが目をつけたのは、意外にも「歯石」でした。
歯医者で取ってもらう、あの硬い歯石です。
正式には歯石(dental calculus)と呼ばれるこの物質は、歯垢が石灰化してできたものです。
一見ただの汚れのかたまりですが、研究者にとっては宝の山です。
石灰化する過程で、持ち主が生前に口にした食べ物のDNAが閉じ込められるからです。
「歯石は、最も消費された食品の分子アーカイブです。いわば、過去の人々の生活を覗く窓のようなものです」と、この研究を率いたIBEの主任研究員パブロ・リブラド氏は語ります。
研究チームが分析したのは膨大なデータです。
現生人類(ホモ・サピエンス)745人分の歯石——最古のものは約3万3000年前。
それに加え、ネアンデルタール人18人分、チンパンジーやゴリラなどの大型類人猿96頭分の歯石も比較対象として分析しました。
これらの歯石に含まれるDNAを、10,761種の昆虫のDNA情報を収めたデータベースと照合し、歯石の中にどんな昆虫のDNAがどのくらい含まれているかを網羅的に調べたのです。
結果、歯石の昆虫DNA量が最も多かったのは、意外にもゴリラでした。
ゴリラは草食動物であり、虫を狙って食べることはしません。
しかし柔らかい新芽を大きな手でむしり取って頬張るとき、葉の上にいた毛虫や甲虫を”うっかり”一緒に口に入れてしまいます。
結果として歯石にはたくさんの昆虫DNAが残されていたのです。
次に多かったのが西アフリカのチンパンジーです。
そして驚くべきことにネアンデルタール人の昆虫DNA量は、この西チンパンジーに匹敵しました。
なかでも圧倒的に多かったのが水辺や湿った環境に関係する双翅目(そうしもく)と呼ばれる昆虫のDNAでした。
研究者たちはこの結果から、ネアンデルタール人は仕留めた獲物を水辺に置くことが多く、そこにハエが卵を産みつけ、死骸には蛆(うじ)がわき、彼らはその蛆ごと肉を食べていた可能性がある、と説明しています。
現代的な人間の感覚からすれば、かなり嫌悪を感じるかもしれません。
しかし放っておくだけで仕留めた獲物の肉に加えて昆虫の体も食べられるとカロリー面では合理的と言えます(Beasley et al. 2025)。
さらに、ハエの幼虫は死骸の硬い部位も時間をかけて分解していきます。
仮にネアンデルタール人がそれを利用していたなら、消化しにくい部位までタンパク源に変えられたことになります。
では私たちの直接的な先祖「ホモ・サピエンス」ではどうだったのでしょうか?
答えは、極めて少ないものでした。
僅かに昆虫の痕跡もありましたが、汚染された水や保存食品に紛れ込んだ昆虫——つまり「意図せず口に入った虫」を示すものが多かったのです。
まとめると
ゴリラ(偶然の大量摂取)> 西チンパンジー(意図的) ≒ ネアンデルタール >> 私たちの祖先(極めて少ない)
となります。
ヨーロッパの古代人がいかに虫を食べてこなかったかが、鮮やかに浮かび上がりました。
しかし研究チームはもう1つ、まったく別の角度からも同じ問いに迫りました。

































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