空間ではなく時間に鏡を作る

波の時間反転(タイムリバーサル)という概念自体は以前から研究されてきました。
例えば音波や電磁波では、波を検出器で記録して逆再生し、元の発生源に再集束させる「時間反転ミラー」という手法が知られています。
しかし従来の時間反転実験には、波を拾う多数のセンサーやその信号を処理・再生する大掛かりな装置が必要でした。
特に水の表面を伝わる波(表面波)は、様々な波長成分が異なる速度で進む分散という性質や、水の粘性による減衰が強いために、時間反転による再集束が理論上は可能でも実験的には難しいと考えられてきたのです。
こうした中、フランスのESPCIパリ=高等物理化学産業大学校の研究チームは、空間と時間の対称性に着目したまったく新しいアプローチで波の時間反転に挑みました。
彼らの発想は、空間ではなく時間に「鏡」を作ることです。
すなわち、波が伝わっている媒質の性質をある瞬間に全空間で一斉にガラリと変化させることで、波を過去に送り返すというアイデアでした。
もしそれが実現できれば、煩雑なセンサーや電子機器を使わずとも媒質自体が“記憶装置”の役割を果たし、波をその場で逆転させられるはずです。
この大胆な発想に基づき提案されたのが「瞬間タイムミラー」という手法で、今回はその世界初の実験実証が行われました。