自分自身を通り抜けられる立体、という奇妙な事実

・サイコロの中をサイコロが通るとは?
まずは話の出発点となる、ルパート王子のサイコロの不思議さから確認してみましょう。 「サイコロの中を同じ大きさのサイコロを通過させられる」というのは普通に考えると、確かに無理があります。 普通のサイコロは重さも硬さもあり、油圧プレスなどで無理に押し込めば両方とも壊れてしまいます。
しかし数学者が見ているのは、サイコロの材質ではなく、立体の形を決める「角の8個の点の配置」と、その影の形だけです。
凸多面体というのは、角の点さえ確定していれば、それらを結ぶことで辺・面・中身までが自動的に決まる立体です。
頂点の配置は、立体全体を決める「骨格図」のようなものです。
サイコロを「8個の角の点の配置」とその影として捉える――300年前のルパート王子もそう考えました。
サイコロとサイコロを両手で押しつぶし合う狂人では、数学の歴史に名前を残すことができません。
才能に恵まれたルパート王子と、後にその話を書き残した数学者ジョン・ウォリスはそうではなく、「サイコロを<通す/通さない>という問題を考えるときに本当に重要なのは、角の8個の点に触れずに、その内部を通るかどうかだ」――つまり「角の8個の点が、もう一方のサイコロの影の内側にすっぽり収まる向きを見つけられるか?」と問題を数学的に翻訳したのです。
角の点さえ影の内側に入れば、辺・面・中身もすべて影の内側に収まる――だから角の点だけを調べれば十分、というのが鍵でした。
この条件では、ほんの少しの工夫で通り抜けが可能です。
具体的には、サイコロを角で立てます。
テーブルの上に、サイコロの一つの頂点だけが触れている状態です。 このとき、上から見下ろした影は、正方形ではなく正六角形になります。
そして正六角形の影は、もとの正方形の面より一回り大きいのです。
だから、その六角形の中には、もとのサイコロの一面より大きい正方形を描き込むことができる。
この対角線方向(角を上にした向き)でも同じ大きさのサイコロを通せますが、ニューランドが見つけた別の巧妙な向きでは、最大で約「1.06」、つまり約6%大きいサイコロまで通り抜けることができます。
これは数学的なトリックではなく、実際に3Dプリンタで作って実演している人もいます。 物理的に再現できる、れっきとした事実です。
・「すべての立体がそうなのか?」という、自然な問い

立方体がそうだと分かれば、当然次にこう考えたくなります。
「ほかの立体ではどうなんだ?」
ここで人間の好奇心が動き出します。
20世紀以降、世界中の数学者やパズル愛好家が、さまざまな立体を相手にこの問題を解いてきました。
1968年には、正四面体と正八面体もルパート性を持つことが示されます。
さらに正十二面体、正二十面体、そしてサッカーボール状の切頂二十面体まで――次々と「自分と同じ形のコピーを通せる穴」が発見されていきました。
それが20世紀以降コンピューターの能力が上がってきてからは特に、その速度は加速していきました。
どんなにチェックしても、出てくるのは通り抜けOKな「ルパート性を持つ立体」ばかりなのです。
自分と同じ形のコピーを通せる穴を持たない立体は、誰も見つけられなかった。
そして2017年、リチャード・ジェラード、ジョン・ウェッツェル、リーピン・ユアンの3人の研究者がついにこう正式に予想しました。
「すべての凸多面体は、ルパート性を持つ」
ここでいう凸多面体とは、ざっくり言えば「平らな面だけでできていて、へこみがない立体」のことです。
サイコロも、ピラミッド型も、サッカーボール型も、みんなこの仲間です。
その「みんな自分と同じ形のコピーを通せる」というのが、2017年の予想でした。
直観的にも、すごく自然に聞こえます。
私たちは普段、立体というものを「とりあえず手に取って、見れば分かるもの」だと思って生きています。
複雑な形でも、何度か回せばどこかに穴を通せそうな気がする。
だから「すべての凸多面体には、自分と同じ形を通せる穴を開けられる」と言われれば、「まあ、そうなんだろうな」と納得してしまう。
ところが――違いました。

























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