2人の若き数学者が300年来の多面体ルールを覆す――「自分自身を通り抜けられない立体」を初発見
2人の若き数学者が300年来の多面体ルールを覆す――「自分自身を通り抜けられない立体」を初発見 / Credit: Steininger & Yurkevich (2025), arXiv:2508.18475
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2人の若き数学者が300年来の多面体ルールを覆す――「自分自身を通り抜けられない立体」を初発見 (2/5)

2026.05.01 20:45:01 Friday

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見つかりはじめた、自分を通れない形

見つかりはじめた、自分を通れない形
見つかりはじめた、自分を通れない形 / Credit:Canva

・「あるかもしれない」と疑い始めた2人の若手

話は約5年前に飛びます。

オーストリアで学生だった2人の数学好きの若者が、いつものようにYouTubeを眺めていました。

その日、彼らがたまたま開いた動画は、サイコロの中を別のサイコロが通り抜けていく、あの不思議な3Dアニメーションだったのです。

2人は、画面の前で釘付けになりました。

「ちょっと待って。これって、あらゆる立体でできるのか?」

その疑問が、彼らのその後の5年間を決めてしまいます。

2人の名前は、ヤコブ・シュタイニンガー氏と、セルゲイ・ユルケビッチ氏。

10代の頃に数学オリンピックの準備を通じて出会って以来の親友です。

シュタイニンガー氏は最終的に修士号を、ユルケビッチ氏は博士号を取得しましたが、2人とも最終的にはアカデミアを離れました。

シュタイニンガー氏はオーストリアの国立統計機関に、ユルケビッチ氏は運輸システム会社に勤めながら、空き時間で一緒に数学を続けています。

YouTubeでルパートのキューブを知った2人は、すぐにアルゴリズムを書き始めました。

さまざまな多面体を入力して、その立体に自分と同じ形のコピーを通せる穴(ルパートトンネル)があるかをコンピューターに探させるのです。

立体の角の点(関節)の位置をぐるぐる回転させながら、「全部の角の点が、もう一方の影の中に収まる向き」を探させる。

そういうプログラムです。

すると、奇妙な傾向が見えてきました。

ほとんどの立体については、アルゴリズムはほぼ瞬時に通し方を見つけてしまいます。

ところが、ごく一部の立体については、コンピューターをいくら走らせてもまったく見つからないのです。

まるで絶対に通過できない不良品の知恵の輪が存在するかのようでした。

理論ではどんな多面体も通り抜けなければならないのに、なぜ以上に苦戦する場合があるのでしょうか?

「これはおかしい」

2人はそう考えました。

アルゴリズムが見つけられないだけの可能性もありますが、ひょっとするとこの立体には、本当に通し方が存在しないのではないか。

2021年の論文で、彼らは公の場で初めてこう書きました。

「すべての凸多面体がルパート性を持つわけではないのではないか」

これが、2017年の「すべての凸多面体はルパート性を持つ」という予想に対する、最初のはっきりとした疑義表明でした。

ただし、当時の2人にとって、これはまだ「そう思う」というだけの話でした。 「そう証明する」とは別の話です。

・数億の形を試したGoogle社員

2人の予想に呼応するように、世界の片隅でも別の研究者が動き始めていました。

Googleのソフトウェアエンジニアであるトム・マーフィー氏です。

インターネット上では「Tom Murphy 7世(VII)」という遊び心のある名義でも知られている人物で、彼は仕事の合間に趣味として、なんと数億通りの多面体をコンピューターで生成し、片っ端からルパート性をチェックしていました。

ランダムに作った多面体、頂点を球面に並べた多面体、特殊な対称性を持つ多面体、そして「いままで見つかっていた通し方をわざと邪魔するように頂点を一つだけ動かした多面体」――ありとあらゆるパターンを試したのです。

それでも、彼のアルゴリズムはほぼすべての立体に、あっさり通し方を見つけてしまいました。

そんな中で、数学者たちは少しずつ「これは怪しい」という立体のリストを作っていきます。

「2週間、デスクトップでずっと作業しました。あの立体はあらゆる試みに抵抗するんです」

ジョンズ・ホプキンス大学のベンジャミン・グリマー氏は、62面の美しい立体「菱形二十・十二面体(ロンビコシド十二面体)」について、こう述懐しています。

これらの「通し方が見つからない頑固な立体」は、いつしか「ノパート候補」と呼ばれるようになります。

「ノー(できない)」と「ルパート」を合わせた造語で、先のマーフィー氏が「Tom Murphy 7世」名義でSIGBOVIK 2025という学術ユーモア会議で命名しました。

しかし、これらが本当に「自分と同じ形のコピーを通せる穴を持たない立体」なのか、それとも「コンピューターが見つけられないだけ」なのかは、誰にも証明できません。

立体の向きには無限のパターンがあります。

コンピューターはその中の有限個しかチェックできません。

「いくらやっても見つからない」と「絶対に存在しない」のあいだには、深い溝があるのです。

「これがあるかもしれない、ないかもしれない」――そんな過渡期的な状況が数年間続きました。

次ページ無限を別の無限に変換する魔法

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