2人の若き数学者が300年来の多面体ルールを覆す――「自分自身を通り抜けられない立体」を初発見
2人の若き数学者が300年来の多面体ルールを覆す――「自分自身を通り抜けられない立体」を初発見 / Credit: Steininger & Yurkevich (2025), arXiv:2508.18475
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2人の若き数学者が300年来の多面体ルールを覆す――「自分自身を通り抜けられない立体」を初発見 (4/5)

2026.05.01 20:45:01 Friday

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300年来のルールを破る多面体がみつかった

300年来のルールを破る多面体がみつかった
300年来のルールを破る多面体がみつかった / Credit: Steininger & Yurkevich (2025), arXiv:2508.18475

2人は新しいアルゴリズムを書きました。

「局所定理が通用する立体」を、コンピューターに自動生成させる。

具体的には、影の輪郭にどう傾けても「条件を満たす3つの関節」が現れるような立体をひたすら作り出していくのです。

アルゴリズムが最終的に吐き出したのが、不思議な立体でした。

90個の頂点(関節)。240本の辺(骨)。152の面(皮膚)。

多面体としては、なかなか派手な構造です。

そしてもう一つの重要な特徴があります。

点対称であること――どの頂点にも、原点を挟んで真反対の位置にぴったり対応する関節がある。

だから、全体が原点を中心に完璧にバランスがとれている。

90個の関節たちが、空中で正確に踊っているような、整然とした立体です。

著者2人はこの新しい立体に、ちょっとふざけた名前を付けました。

「ノパーヘドロン(Noperthedron)」

これは先ほど登場した「ノパート」――マーフィー氏が「自分と同じ形を通せる穴を持たない多面体」を指して作った造語――に、多面体を表す接尾辞「-ヘドロン」をくっつけたものです。

つまり「ノー(Nope)」と「ルパート(Rupert)」と「-ヘドロン」の三段重ねの合成語、という不思議な命名です。

このノパーヘドロンは容疑者どころか、法則を打ち破る例外になり得る、ほぼ犯人と言える存在です。

けれどこれだけでは、まだ証明にはなりません。

5つのダイヤルでできた5次元空間のあらゆる地点で、「90個の頂点を、もう一方の影の中に押し込められる向きが、本当に存在しない」ことを確認しないといけません。

そこで研究チームは、この5次元空間を、約1800万個の小さなブロックに切り分けました。

そして各ブロックの中心点をひとつ取り出して、片っ端から調べていきます。

こういうと

「結局1800万通りしか調べていないなら、無限の取りこぼしがあるんじゃないの?」

「5次元空間に『飛び石』のように1800万個の点が散らばっていて、その点だけ調べたのは無限からの逃げでは?」

と思うかもしれませんが、違います。

5次元空間を、1800万個の小さな「箱」に切り分けはしますが、1800万個のブロックは、5次元空間の「全部」を覆っているのです。

隙間はゼロです。

5次元空間のどこをダイヤルで指し示しても、必ずどこかの箱に属しています。

(※厳密には、論文で扱われる5次元空間は無限に広がる空間ではなく、立体の対称性によって有限の範囲(角度の組み合わせ)に絞り込まれています。ただこれは逃げではありません。無限が有限の繰り返しならば、その有限の範囲で証明できれば無限全体に適用できるのです。ノパーヘドロンの15回対称性により、本来360度ぶんあるダイヤルの一部は24度ぶんだけ調べれば十分になります。言い換えれば、有限の範囲が「無限のダイヤル操作の急所」となっており、そこさえ抑えれば残りは対称性のコピーとして自動的に結論が決まる、という仕掛けです。)

そして1800万個の箱の一つひとつには、ある仕掛けがほどこされていました。

「箱の中心点さえ調べれば、その箱の中のどこを動いても結論は変わらない」――そう保証してくれる論理が、最初から組み込まれていたのです。

これがまさに、2人が5年がかりで作り上げた大域定理と局所定理の役割でした。

普通の検算は、1点を調べると、その1点についてしか結論が出ません。

ところが大域定理と局所定理は違います。

1点を入力すると、その点を中心とする領域全体について結論が出る。

言ってみれば、単体攻撃ではなく「範囲攻撃」ができる論理装置です。

そうしておいて各箱について――

大域定理が通用すれば:そのブロック全体を「通せない」と判定して除外する。

局所定理が通用すれば:そのブロック全体を「通せない」と判定して除外する。

として、調べていきます。

中心点を1つ調べると、その1点での観測結果から、定理の論理によって、箱の中の連続的に詰まった無限の点ぜんぶについて結論が出る。

1点を見ているのですが、結論は箱全体に行き渡っている。

これが繰り返されていきます。

これは数学の証明において有限で無限を打ち倒す典型的なやり方です。

無限の点を1個ずつ確かめるのではなく、有限個の代表点での観測と、点の周辺での連続性や幾何学的性質を保証する定理の論理によって、無限の点に関する結論を一括で得るのです。

コンピューター科学の用語で言えば「区間演算による厳密な誤差評価」に近い手法を、5次元の領域分割で実装したものになります。

言ってみれば「無限の急所を押え、有限を定理の論理で範囲攻撃できるように強化する」という補助魔法を使い、有限で無限を克服するわけです。

そして、結果はこうでした。

1800万個すべてのブロックで、大域定理か局所定理のどちらかが通用し、すべてのブロックが「通せない」と判定されました。

これらのブロックは5次元空間全体を埋め尽くしていて、各ブロックの中の無数の点も、定理によってすべてカバーされている。

つまり、有限個の「範囲攻撃」が、無限のダイヤル空間を完全に打倒したのです。

ノパーヘドロンの90個の関節を、すべて別のノパーヘドロンの影の内側に押し込められるような向きは、5つのダイヤルをどう調整しても、宇宙のどこにも存在しない。

肉でも皮膚でも骨でもない、90個の関節たち。

それが、どんなに角度を変えても、必ずどれか一つが牢獄からはみ出してしまう。

これが、300年越しの問いに対する、ついに出た答えでした。

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