無限を別の無限に変換する魔法

シュタイニンガー氏とユルケビッチ氏は、力ずくのチェックでは埒が明かないと考えていました。
立体の向きには無限のパターンがあります。
コンピューターで一つずつ調べていたら、宇宙が終わるまでに終わりません。
ここで2人が考えたのは、こういう発想でした。
立体を8個や、20個や、60個の角の点の集まりとして数学的に扱うと、立体を通すかどうかは、結局のところ次の問いに変わります。
「2つの立体の角の点を、どう回転させ合えば、通すほうのすべての点がもう一方の影の内側に収まるか?」
難しそうに思えますが、ようは内側の通すほうの角の点が外に出たらアウトというのを、グリグリ回転させながら確かめていくという意味です。
そして2つの立体の影の関係を決めるパラメーターは、論文では合計5つで表されます。
内訳は、一方の立体の射影方向(影を作る視線の向き)を決める2つの角度、もう一方の立体の射影方向を決める2つの角度、そして影の平面内での回転を決める1つの角度――計5つの「ダイヤル」です。
5種類の数値(軸)で物事が決まる世界を、数学では「5次元の問題」と呼びます。
だから「2つの立体の向きの無限の組み合わせ」というのは、5次元空間の中の1つの点として表現できる――
「何を言っているかわからない」と思うかもしれません。
ですが要は、無限に思えるパターンがあるところを、2つの立体の影の関係を変える「ダイヤル(軸)」が5種類あり、それらを少しずつ動かせる。
3次元空間なら「縦・横・高さ」の3種類のダイヤル(軸)で位置が決まりますが、5次元空間の中ではそれが5種類になると考えたのです。
この5種類のダイヤルで問題となる外側と内側のサイコロたちのあらゆる影の関係が決まります。
2つの立体の回転パターンは無限にあります。
ダイヤルをいじって5次元空間のどこに存在するかも無限の選択肢があります。
こう書くと進歩がないように思えますが、研究者たちは、まず無限の種類を別の形にしてみたのです。
「無限の考え方を変えた」とも言えるでしょう。
どうしようもない相手も角度を変えてアプローチすれば打開策がみつかることがあるように、埒が明かない無限相手でも、考え方を変えれば何かが見えてくるかもしれません。
実際、無限の形を変えることで「宇宙が終わるまで続けても証明できない無限」を「5次元空間の全ての地点で、通れる場合が存在しないことを証明すればいい」という問題に書き換わりました。
ただ依然として、無限の点を調べなければならないという課題は残っていました。
・はみ出し者をみつければいい

ここから先は、2人がどうやって「無限の組み合わせを排除する論理」を組み上げたか、という話です。
難しそうですが、中身はかなりシンプルです。
立体の角の点たちを上から見下ろした影に閉じ込めようとするとき、角の点がもう一方の影から「どれくらいはみ出しているか」をコンピューターで測ることができます。
もちろん人間が実際に定規と分度器で人力で測ることもできますが、コンピューターに任せた方が楽です。
ただ時にはコンピューターがかなりの時間をかけても、点のいくつかが影から大きくはみ出し続けてしまう場合もあります。
このとき、その向きを少しいじったくらいでは、関節のはみ出し方は劇的には変わりません。
多少ダイヤルを回しても、はみ出した関節は、はみ出したままです。
つまり、ある向きで「盛大にはみ出している」という事実があれば、その向きの周辺一帯は、まとめて「ルパート通路が存在しない領域」と考えられるわけです。
疑わしきは罰してしまう方法です。
5次元のダイヤル空間に、はみ出している領域の「ブロック」が、ごっそり生まれるイメージです。
これが2人の最初の武器、「大域定理(global theorem)」と呼ばれる結果でした。
もちろん、疑わしきを罰する「だけ」では数学の証明どころか普通の裁判でもアウトです。
そこで2人は立体の影の輪郭に並ぶ点たちのなかから、特定の条件を満たす、影の境界上の3点を選んで調べることにしました。
これらは「3方向に最大限に張り出している」「原点を内側に含む三角形を作る」「角度的に局所的に最も遠い」など、複数の条件を満たすよう選び抜かれた点たちです。
研究者たちはこの3点の動きを集中的に調べました。
無限、5次元ときて、3つの点の動きまで絞り込んでいったわけです。
これが2人の考えたもう一つの武器「局所定理(local theorem)」でした。
すると立体をどんなふうにわずかに回転させても、必ずそのうちの少なくとも1つの点が、さらに外側に飛び出してしまうことが、論理だけで証明できるのです。
1つが必ず外に飛び出すことを証明できたということは、無限に試しても飛び出し続けるという意味です。
ここまでで、2人が真剣に考え始めてから、すでに数年がかりです。
ところが、ここからまた壁が現れます。
局所定理を使うには、対象の立体の影の輪郭上に条件を満たす3点が必要です。
しかしこれまで「ノパート候補」と疑われてきた美しい立体たち──ロンビコシド十二面体、その仲間たち──を実際にチェックしてみると、いずれもどこかの方向の影で3点が出そろわない状況が出てしまったのです。
ここで普通なら、「やっぱり予想は正しかったのかもしれない」と諦めるところです。
けれど2人は違いました。
「無いなら、自分たちで作ろう」
そう決めたのです。
容疑者探しから、1人の真犯人を特定する作業に入ったのです。
たった1つ絶対的な例外であることを証明できれば法則を崩すには十分です。

























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