なぜ祖先は「一つ目」になったのか

物語は約6億年前にさかのぼります。
当時、私たちの遠い祖先は、他の多くの動物と同じように頭の両側に一対の眼を持ち、海底を動き回る小さな生き物でした。
体長ははっきりとは分かっていませんが、小型だったと考えられます。
眼といっても精巧なカメラのようなものではなく、光の方向を感じ取って移動を導く、ごくシンプルな光センサーです。
論文では「小さな底生の草食動物(small benthic grazer)」と表現されています。
海底の微生物マットの表面をゆっくり這い、光を頼りに自分の位置や姿勢を把握しながら暮らしていたと考えられます。
ところが約5億6000万年前ごろ、この祖先は劇的にライフスタイルを変えたと考えられています。
動き回ることをほとんどやめ、海底の砂や泥の中に潜り込んで、プランクトンを濾しながら暮らす生活へと移行したというのです(Lowe et al., 2015)。
なぜそんな選択をしたのでしょうか。当時の海の環境を知ると、その理由が見えてきます。
5億6000万年前の地球はエディアカラ紀のただなかにあります。
この時代の海の酸素濃度は現在よりも低く、時期や場所によって大きく変動していたと考えられています。
活発に泳ぎ回るには、筋肉を動かし続けるための酸素が必要です。しかし当時の海は酸素が少ない、あるいは不安定な環境が広がっていたと考えられており、動き回る生き方には厳しい条件でした。
一方で、海底は微生物マットに覆われ、水中にはプランクトンや有機粒子が豊富に漂っていました。
そして何より、この時代には本格的な捕食者がほとんどいなかったとされています。捕食行動の最初の確かな証拠は、エディアカラ紀の最末期──約5億5000万年前ごろ──にやっと現れる程度です。
酸素が少なく動き回るのが大変で、動かなくても食べ物は周囲に漂っていて、逃げるべき天敵もいない──。そんな環境であれば、口を開けてじっとしている方が、はるかにエネルギー効率が良かったのです。
ただし、その代償は小さくありませんでした。
動かないなら、左右の目で周囲を見渡す必要はありません。進化の世界では、使わない器官は長い時間をかけて退化していきます。眼を維持するには脳のリソースもエネルギーも必要です。
こうして、せっかくあった一対の眼は、数千万年のうちに失われてしまいました。
しかし、光を完全に感じられなくなるのは困ります。「今は昼か夜か」を知ることは体内リズムの維持に欠かせません。
また、たとえ本格的な捕食者がいない時代であっても、頭上にふっと影が差したとき──大きな生き物が通りかかったり、流木のようなものが近づいてきたとき──それを感知して体を縮める反応は、定住生物にとって基本的な防御手段です。
現在でもホヤやゴカイの仲間は、影を感じるだけで素早く体を引っ込める「影逃避反応」を示します。
そこで、頭のてっぺんにあった小さな光感受性細胞の塊だけが、最後のセンサーとして残りました。
なお、この「単眼」は学術的には「正中眼(せいちゅうがん)」と呼ばれ、見た目は1つでも内部には複数の種類の光センサーを含む、小さな複合器官だったと考えられています。この内部構造が、のちの章で重要な意味を持ってきます。
こうして私たちの祖先は、一時的に「サイクロプス」になったのです。
そして、その時期の私たちの先祖は、多くの人が「動物」と聞いてイメージするものとは、かなりかけ離れた存在だったと考えられています。
現生の近縁種からの類推では、小さなミミズのような細長い生き物で、海底の砂に体を埋め、口の周りの繊毛(せんもう)を使って海水からプランクトンを濾し取る──いわゆる「濾過食(ろかしょく)」で暮らしていたと考えられています。
「そんな地味な生き物が、本当に私たちの先祖なの?」
そう疑いたくなる気持ちもわかります。
しかし、現在も地球上に生きている近縁の動物たちが、この推測を力強く裏づけています。
たとえばナメクジウオ。脊椎動物の遠い近縁にあたる動物で、砂に体を潜らせ、頭だけ出してプランクトンを濾過して食べています。
あるいはホヤ。岩に張りついたゼリー状の袋にしか見えませんが、実は脊椎動物にきわめて近い系統の生き物です。

とりわけ興味深いのは、ホヤの幼生がオタマジャクシのように自由に泳ぎ、頭頂部に単眼的な光センサーを持っていることです。
ところが成体になると泳ぐのをやめて岩に固着し、脳も眼も自ら退化させてしまう。まるで6億年前の進化を個体の一生の中で再現しているかのような変態(へんたい)を見せるのです。
さらに驚くべきことに、脊椎動物であるヤツメウナギの幼生(アンモシーテ幼生)も、川底の泥の中で数年間にわたって濾過食生活を送ります。
眼はほとんど機能せず、頭頂の松果体だけで光を感じ取りながらひっそりと暮らしている──5億6000万年前の単眼化した祖先の暮らしの名残を、今も色濃く残している姿です。
さらに「退化」と「単眼化」を経験したとされる脊椎動物の先祖を含むグループ全体「後口動物」を見てもこの傾向は同じでした。
「後口動物」──ヒトデやウニの仲間(棘皮動物)、ギボシムシ(半索動物)、ナメクジウオ、ホヤ、そして脊椎動物を含む一大グループ──の系統樹を見渡すと、多くの近縁種で「定住」か「濾過食」、あるいはその両方の特徴が見られることに気がつきます。
これは偶然の一致では説明できません。
もし5つ以上の系統がそれぞれ独立に、たまたま同じ定住スタイルを選んだのだとすれば、それはあまりに不自然な偶然です。もっとシンプルで説得力のある説明は、「これらすべての共通祖先が、すでに定住濾過食だった」と考えることです。
つまり、後口動物という現在の地球を活発に動き回っている種を多く含む巨大なグループそのものが、進化の歴史のある段階で「じっとして濾す」スタイルへと、いわば退化のような移行を経験していたのです。
「進化は常に前に進むもの」──そう思い込んでいると、この事実は受け入れがたいかもしれません。
しかし実際には、進化は環境に合わせて「引き算」もします。動く必要がなくなれば、眼も筋肉も脳の一部さえも、維持コストのかかる贅沢品として削ぎ落とされるのです。
そして皮肉なことに、この「引き算」の時代を経たからこそ、のちに脊椎動物が目を「作り直した」とき、他のどの動物とも違うまったく独自の方法で眼を進化させることになりました。

























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