あなたの脳に今も残る「第三の眼」

物語の最後に、もうひとつの驚きが待っています。
網膜の複雑さという形で私たちの目に刻まれた痕跡のほかに、あの頭頂の単眼そのものが、完全に消えたわけではなかったのです。
私たちの脳の中心付近に、米粒ほどの小さな器官があります。松果体(しょうかたい)です。
メラトニンというホルモンを分泌し、ヒトでは目から入った光の情報に応じて体内時計を調節する──睡眠と覚醒のリズムを司る、静かだけれど重要な臓器です。
この松果体こそ、6億年前のサイクロプス祖先の「単眼」の名残にあたると考えられています。
根拠は複数の方向から得られています。
第一に、松果体と網膜はどちらも胚発生の初期段階で同じ領域──間脳(かんのう)──から作られます。出発点が同じなのです。
第二に、ゼブラフィッシュなどでシングルセルRNA解析という手法を用いて松果体の細胞を一つひとつ調べると、網膜のロッド細胞(桿体)やコーン細胞(錐体)とよく似た細胞、さらには網膜色素上皮やグリア細胞に類似した細胞までもが見つかりました。
松果体はいわば「ミニチュア網膜」のような細胞構成を、脳の奥深くに今も抱えているのです。
第三に、一部の脊椎動物は今でも頭頂部に光を感じる「頭頂眼」を保持しています。
ニュージーランドに生息するムカシトカゲやイグアナ類では、頭頂部に小さな鱗に覆われた「第三の眼」の痕跡を肉眼で確認することができます。
ヤツメウナギの松果体に至っては、ロッド様・コーン様の光受容細胞が今も並んで存在し、ほとんど「もう一つの目」と呼べるほどの構造を維持しています。
ただし、ヒトの松果体は物を見るための目ではなく、目から入った光情報に応じて働きが調整される器官です。
哺乳類に進化する過程で、この頭頂眼は完全に頭蓋骨の内側に埋もれました。
しかしメラトニンを通じて光と睡眠を結びつける機能は、6億年の時を超えて今も受け継がれています。
私たちの目は2つ、けれど今の網膜の起源をたどれば、行き着くのは1つの単眼です。
左右の網膜に宿る複雑な「キメラ回路」も、脳の奥で光と眠りを結びつける松果体も、どちらも同じ祖先から受け継がれた、6億年前の小さな単眼の記憶なのです。
海底に潜ってじっと光を感じていたあの一つ目の生き物は、消えてしまったわけではありません。
あなたが今この文章を見ている目の中にも、今夜あなたを眠りへと誘う脳の中にも、静かに生き続けているのです。

























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松果体に光当てるとやっぱり何か反応するのですかね。