大学生が40年間信じられてきたデータサイエンスの定説を覆した
大学生が40年間信じられてきたデータサイエンスの定説を覆した / Credit:Canva
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大学生が40年間信じられてきたデータサイエンスの定説を覆した

2026.04.09 17:00:22 Thursday

コンピューターサイエンスの世界には、1985年にアンドリュー・ヤオ(Andrew Yao)氏が残した一つの予想がありました。

それは「目的のデータを探すとき、その手数には、これ以上減らせない理論的な下限が存在するはずだ」というものでした。

以後40年にわたり、多くの研究者はこれを長く有力な予想として受け止め、計算機科学の議論に深く影響を与えてきました。

多くの人が「これは破れないだろう」と考えていたのです。

しかし、この40年来の予想を真正面から覆す結果が発表されました。

設計を最初に確認したクーズマウル氏は、こう語ったとされています。

「君は単にカッコいい仕組みを作っただけじゃない。40年来の予想を完全に吹き飛ばしたんだ」

さらに驚くべきことに、発見者のクラピヴィン氏自身はその予想の存在すら知らなかったといいます。

知らなかったからこそ彼は「これは破れないはず」という先入観が働かず、誰も試そうとしなかった設計にたどり着いたのでしょう。

今回の成果は、「時に知識が足かせになる」という科学の皮肉を映していると言えるでしょう。

研究内容の詳細はプレプリントサーバーである『arXiv』にて公開されています。

Optimal Bounds for Open Addressing Without Reordering https://doi.org/10.48550/arXiv.2501.02305

あなたが毎日使っている「一瞬で探す魔法」

大学生が40年間信じられてきたデータサイエンスの定説を覆した
大学生が40年間信じられてきたデータサイエンスの定説を覆した / Credit:Canva

クラピヴィン氏らが改良したのは「ハッシュテーブル」と呼ばれる仕組みです。

聞き慣れない言葉かもしれませんが、実はあなたがスマホを触っている間にも、何度も動いている基礎技術です。

巨大な図書館を想像してみてください。

蔵書は100万冊です。 もし本が適当に並んでいたら、1冊を探すのに丸一日かかってしまいます。

だから現実の図書館は「著者名の頭文字で棚を分ける」といったルールを設け、一瞬で目的の棚にたどり着けるように工夫しています。

コンピューターもまったく同じ問題を抱えています。

検索サービス、SNS、メッセージアプリ、地図アプリ――どれも膨大なデータの中から「今あなたが欲しい情報」を瞬時に取り出さなければなりません。

そのために使われているのがハッシュテーブルです。

仕組みはこうです。

たとえば「田中」という名前を特別な計算式に通すと、「棚番号473」という数字が返ってきます。

取り出すときも同じ計算をすれば、「田中さんは473番にいる」とすぐに分かります。

100万人の中から一人を探すのに、運がよければ棚をたった一つのぞくだけで済みます。

これがハッシュテーブルの魔法であり、現代の多くのデジタルサービスを支える、最も基礎的な仕組みの一つです。

ただし、この魔法には一つだけ弱点があります。

棚が混んでくると遅くなるのです。

1985年、後にコンピューターサイエンス界のノーベル賞とも呼ばれるチューリング賞を受賞することになるヤオ氏が、この混雑問題について一本の論文を発表しました。

タイトルは「一様ハッシングは最適である」です。

その名の通り、彼はある種のハッシュテーブルに関する重要な結果を証明し、さらに論文の流れの中で一つの予想を残しました。

ヤオ予想の主張を、思い切ってかみ砕くとこうなります。

「貪欲な(最初に見つけた空き棚にすぐ物を入れる)従来型のオープンアドレス方式では、棚が混雑してくると検索にかかる時間は必ず増えます。その増え方には『これ以上は下げられない』という床(下限)が存在し、その枠組みの中ではどんな工夫をしても、この床より速くはできないだろう」

この予想は長く強い影響力を持ち、専門家の間でも「これは誰にも崩せないだろう」と半ばあきらめ気味に語られてきました。

そして証明も反証もされないまま、ヤオ予想はコンピューターサイエンスの基礎を縛る『1985年以来の壁』として静かに君臨し続けてきたのです。

次ページ『知らなかった』が生んだ革命

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