「ほぼ1日がかり」なのに動いているのは15分だけ
研究チームは2018年から2020年にかけて、コンゴ南部のルヴィロンボ滝で観察を行いました。
その結果、数千匹ものシェリアー魚が群れをなし、水しぶきがかかる岩壁に張り付きながら、上流へと移動している様子が確認されました。
実際の映像の一部がこちらです。音量に注意してご視聴ください。
しかしこの登攀(とうはん)、いわゆる「根性論」で登っているわけではありません。
むしろ、極端なまでに“休みながら登る”戦略を取っています。
1匹の魚が滝を登り切るまでにかかる時間は、平均で約9時間45分です。
ところが、そのうち実際に体を動かしている時間は、わずか約15分程度しかありません。
残りの時間は、ほとんどが休憩です。
短い停止を何度も繰り返しながら、さらに途中の岩棚では1時間近くじっと動かず休むこともあります。
まるで登山者が山小屋で休みながら山頂を目指すような、極めて効率的なエネルギー管理です。
このときシェリアー魚は、胸びれや腹びれの裏側にあるフック状の構造を使って岩に張り付き、体を左右に振ることで少しずつ前進します。
しかも彼らは、激しく流れ落ちる水に逆らいながら登っているのです。
当然、失敗も少なくありません。
水流に弾かれて落下し、再び最初から登り直す個体も多く観察されています。
特に崖の張り出し部分では、逆さまの状態で進む必要があり、ここでの落下が頻発していました。
さらに興味深いことに、この挑戦に参加できるのは小型の個体だけです。
体長が約48ミリを超えると、体重の増加によって自重を支えきれなくなり、登る能力を失うと考えられています。
なぜそんな無茶を?「帰還」か「生存戦略」か
ではなぜ、ここまでして滝を登るのでしょうか。
研究チームは2つの有力な仮説を提示しています。
1つは「帰還説」です。
雨季の激しい増水によって、シェリアー魚が下流へ流されてしまい、本来の生息地である上流へ戻ろうとしている可能性です。
実際、他の魚でも似たような上流回帰行動が知られています。
もう1つは「より良い環境への移動」です。
滝の上流は、餌の競争が少なく、捕食者も少ないと考えられています。
一方で下流は、捕食者が多く、餌資源も限られている環境です。
つまりこの登攀は、単なる無謀な挑戦ではなく、「生き残るための合理的な戦略」である可能性が高いのです。
【滝の壁を登るシェリアー魚たちの画像がこちら】
ただし、この壮大な挑戦には別のリスクも潜んでいます。
滝を登る前に魚が集まるポイントでは、違法な漁法によって簡単に捕獲されてしまうのです。
さらに、乾季には農業用水のために川の流れが分岐され、下流が干上がることもあります。
こうした人間活動によって、シェリアー魚の生息環境は大きく脅かされています。
「登る魚」が教えてくれるもの
今回の研究は、魚の行動に対する私たちの理解を大きく更新するものです。
水中で暮らすはずの魚が、10時間かけて滝の壁を登る。
それは一見すると奇妙で非効率な行動に見えます。
しかし実際には、環境に適応した高度な戦略の結果でした。
同時にこの研究は、こうした独特な生態が、環境の変化や人間活動によって簡単に失われてしまう危うさも示しています。
滝を登る魚の姿は、単なる「珍しい現象」ではありません。
それは自然が生み出した精巧なサバイバル戦略であり、そして今まさに失われかけている貴重な生態系の一部なのです。
























大変そうですけど、スロープとかつけちゃうのは駄目なのですよね、きっと。
「登竜門」の故事成語を生み出した鯉の滝登りは有名だけど、たぶんこれ程の垂直の壁ではなかったと思う。10時間もかけて垂直の滝を登りきるとは、まさに大自然の驚異だね。防御力に弱く、生存競争で生き残るのが厳しい小型の身の軽い個体だけが滝登りの条件に適うなんて、皮肉な巡り合わせだ。でも、途中で落下してもまた一からやり直すだけの価値がこの挑戦にはきっと在るんだろうな。コンゴに棲むシェリアー魚か、名前だけでも今後とも忘れずにいたい健気な魚だね。
「疲労」と「休憩」は本能的に対応するのだとしても、登攀の失敗…やり直しの時の「感情」があるのかどうか知りたい。そして登り切った時は…?