スパッタリングとは、どんな現象?

「スパッタリング」という言葉は、あまり聞き慣れないかもしれません。
しかしこの現象は、磁場に守られていない惑星では、大気を失わせる大きな原因になり得るものです。
そもそも太陽からは、常に高速で飛び交う粒子の風――太陽風が吹きつけています。
地球はその攻撃を強力な磁場シールドで防いでいますが、火星にはそれがありません。
つまり、火星の大気はほとんどむき出しの状態で太陽風にさらされているのです。
このとき、太陽風の中のイオン(電気を帯びた粒子)が火星の上層大気に突入すると、中性の気体分子に衝突してエネルギーを与えます。
そのエネルギーが十分に大きい場合、分子は火星の重力を振り切って、宇宙空間へ飛び出してしまうのです。
これが「スパッタリング」と呼ばれる現象です。
まるで見えない隕石が大気にぶつかり、粒子を弾き飛ばすようなこのメカニズムは、長い時間をかけて火星の大気を薄くしていきました。
これまでも理論的には存在が予測されていたものの、スパッタリングそのものを実際に観測するのは非常に困難でした。
なぜなら、宇宙に飛び出す微小な粒子の動きは極めて微弱で、他の現象と区別するのが難しいからです。