不眠症の治療には「セックス」が薬よりも効果的
不眠症の治療には「セックス」が薬よりも効果的 / Credit:Canva
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不眠症の治療には「セックス」が薬よりも効果的

2025.07.14 22:00:10 Monday

アメリカのアトリウム・ヘルス(Atrium Health)およびノースダコタ睡眠センター(North Dakota Center for Sleep)で行われた最新の研究によって、「就寝前の性行為やオーガズムが、慢性的な不眠症の改善において睡眠薬に匹敵する、あるいはそれを上回る効果を持つ可能性がある」ことが明らかになりました。

研究では参加者の約75%が、性行為後の夜に「睡眠の質が良くなった」と答え、64%が「睡眠薬よりも効果があるか、少なくとも同程度だった」と評価しています。

古くから映画や小説などで描かれてきた「性行為の後は眠りやすい」という言い伝えが、ついに科学的な裏付けを得ることになったのです。

しかし、なぜ性行為に睡眠を促す作用があるのでしょうか?

研究内容の詳細は『SLEEP』にて発表されました。

0405 How Well Does Sexual Activity Improve Sleep When Compared With Pharmacologic Sleep Aids? https://doi.org/10.1093/sleep/zsad077.0405

俗説から科学へ:「セックスは睡眠に良い」の真相を探る

俗説から科学へ:「セックスは睡眠に良い」の真相を探る
俗説から科学へ:「セックスは睡眠に良い」の真相を探る / Credit:Canva

ベッドに入ってもなかなか眠れない夜を経験したことはありませんか?

時計の針を見つめながら、「あと何時間しか眠れない」と焦れば焦るほど目が冴えてしまう——そんな悩みを抱えている人は少なくありません。

実際、これまでの研究では成人の約10%が慢性的な不眠症を抱え、加えて約20%が断続的に不眠の症状を経験しているとされています。

不眠が続くと、日中の眠気や疲れを引き起こすだけでなく、仕事や勉強に集中できなくなり、精神的なストレスや不安を悪化させることもあります。

さらに慢性化すると、うつ病や不安障害などのメンタルヘルスの問題にもつながりかねません。

だからこそ、不眠症をどうやって改善するかは、多くの人にとって切実な問題になっています。

そんな不眠症の治療として、最も一般的に使われているのは睡眠薬です。

しかし、睡眠薬には依存性があったり、長期間飲み続けると副作用のリスクが増えたりするという問題があります。

最近の研究でも、睡眠薬を長期にわたって服用すると身体的・精神的な依存を引き起こす可能性が指摘されています。

そのため、最近では睡眠薬に頼らず、もっと自然な方法で睡眠の質を高めたいと考える人が増えています。

具体的には、就寝前にハーブティーを飲んだり、ストレッチや瞑想をしたりといった、さまざまな工夫を試みている人も多いでしょう。

そこで注目されたのが性行為です。

「性的な行為をした後はよく眠れる」という話を耳にしたことはないでしょうか?

映画やドラマ、小説の中でも、セックスをした後に登場人物が心地よく眠りに落ちるという描写は珍しくありません。

コラム:動物も交尾の後に眠くなる

「セックスのあとに眠くなる」という現象は、実は動物の世界では先行して確認されています。ラットやマウスなどのげっ歯類、さらには一部のサルやボノボなどの霊長類では、交尾後にメスが身体を横にして動きを止める、あるいは眠りやすくなるという行動がよく観察されます。これは生物学の世界で「交尾後の休息行動(Post-copulatory immobility)」と呼ばれる現象です。一見すると、単に疲れたから、あるいはリラックスしたから休息しているようにも見えますが、実は生物学の分野では以前から「精液が体外に流れ落ちるのを防ぎ、妊娠の確率を高めるため」という仮説が真剣に議論されています。つまり、交尾の直後にメスが体を横にすることで、重力によって精液が流出することを防ぎ、精子を膣内にできるだけ長く保持して受精の可能性を高めているのではないかという考え方です。アメリカの心理学者ドナルド・デュースベリー(Donald A. Dewsbury)は、1982年に発表した研究のなかで、ラットやマウスといったげっ歯類のメスにおける交尾後の休息行動が、精液を膣内に保持する効果を持ち、妊娠成功率を高める可能性を指摘しています(Dewsbury, 1982)。また、イギリスの研究者ロビン・ベイカー(Robin Baker)とマーク・ベリス(Mark Bellis)は、1995年に出版した著書『Human Sperm Competition』の中で、人間を含む哺乳類において、交尾後に特定の姿勢をとることが精液を膣内により長く保持する可能性について詳しく検討しています(Baker & Bellis, 1995)。では、人間の場合はどうでしょうか? 人間においても、性行為の後に女性がしばらく横になった姿勢を取ることが妊娠成功率をわずかに高める可能性については、一部の研究で示唆されています。ただ、人間は文化的・社会的な要素が強く影響しているため、明確な効果を実証するのは容易ではありません。

しかし、意外なことに、これまでこうした「セックスと睡眠の関係」を科学的に本格的に調べた研究はほとんどありませんでした。

つまり、この身近な現象が単なる俗説なのか、本当に科学的根拠のある現象なのか、まだよくわかっていなかったのです。

そこで今回の研究チームは、この長年の「常識」をきちんと科学的に検証することにしました。

もし本当に性行為が睡眠の改善に効果があるのなら、それは睡眠薬に頼らない新しい治療法として有効かもしれません。

性行為によって本当に睡眠は改善するのか?

そしてもし改善するとすれば、その効果は睡眠薬と比べても劣らない、あるいはそれ以上に優れているのでしょうか?

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