断片的な“夢報告”研究の限界と新戦略

「昨日、どんな夢を見ましたか?」と聞かれても、多くの人はすぐには思い出せないものです。
思い出せたとしても、ぼんやりとした印象だけが残っていたり、肝心なところが抜け落ちていたりします。
これは夢の性質というより、睡眠中の脳が記憶を整理したり、新しい記憶をうまく作れなかったりすることに原因があります。
そのため、私たちは夢の内容を起きた後に思い出そうとしても、どうしても断片的で曖昧な記憶しか取り出すことができないのです。
ましてや、他人に正確に伝えることは困難を極めます。
このことは、夢を科学的に研究する人たちにとって長年の悩みでした。
研究者が知りたいのは、夢を見た本人が「夢から覚めて語る内容」ではなく、まさにその人が「夢を見ている瞬間に体験している内容」だからです。
しかし、私たちには「夢を見ている最中にその人とコミュニケーションをとる」方法など想像もつきませんでした。
ところが、ある科学者たちは驚くべき方法を思いつきました。
それは、夢を見ている本人に直接話しかけてしまう、という大胆で常識外れのアイデアです。
ここで鍵となるのが「明晰夢(めいせきむ)」という現象でした。
明晰夢とは、「今自分が見ているのは夢だ」と夢の中で自覚できている状態のことで、夢の世界にいながら、自分の意識をはっきりと保つことが可能になります。
もし夢の中にいる人が現実の人間とコミュニケーションできるなら、それはおそらく明晰夢の状態でこそ可能になるはずだ、と研究者たちは考えました。
とはいえ、ほとんどの人がこう思うでしょう。
「そんなことは無理に決まっている。眠っている人に声をかけたら、普通は目が覚めてしまうか、あるいはまったく聞こえないはずだ」と。
実際、研究を率いたノースウェスタン大学のケン・パラー教授自身も、「ほとんどの人は『無理だ』と思うでしょう。質問した瞬間に目覚めるか、理解できないはずだと。しかし結果は違いました」と、自らの驚きを隠しません。
研究チームは、この前代未聞の試みについて、「まるで別の惑星にいる宇宙飛行士と通信する方法を探すようなものだった」と語っています。
夢の世界は、現実とはまったく異なる、個人の記憶や想像から生み出された世界です。
しかし、もしもその夢の世界と現実世界をリアルタイムでつなぐ方法が見つかれば、夢の研究は大きく前進します。
夢を見ることの意味、私たちが眠っている間に脳で何が起こっているのか、そして記憶や創造性が睡眠とどう関係しているのかなど、これまで謎だった多くのことが解明できるかもしれません。
果たして夢の中の人とコミュニケーションは可能なのでしょうか?