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常識を覆す?引っ張ると縮む構造の開発に成功 / Credit:AMOLF
technology

”引っ張ると「縮む」構造”が開発される

2025.05.20 11:30:48 Tuesday

「引っ張れば伸びる」という現象は、誰もが疑うことのない物理の常識です。

輪ゴムでもスプリングでも、外から力をかけて引っ張れば、当たり前のように長くなります。

しかしこの常識を覆すような、「引っ張ると縮む」構造が開発されました。

この一見矛盾したような挙動を示す構造を開発したのは、オランダのAMOLF研究所のチームです。

彼らは「カウンタースナッピング」と呼ばれる理論現象を、世界で初めて物理的に実現可能な弾性構造として構築することに成功したのです。

この成果は、2025年4月17日付の『PNAS』誌に掲載されました。

These structures shrink when pulled https://amolf.nl/news/these-structures-shrink-when-pulled Watch: New structures shrink instead of stretching when pulled https://newatlas.com/physics/countersnapping-shrink-stretching-pulled-amolf/
Exotic mechanical properties enabled by countersnapping instabilities https://doi.org/10.1073/pnas.2423301122

引っ張ると縮む構造「カウンタースナッピング」

私たちが日常で扱うほとんどすべての物体は、力を加えるとその方向に変形します。

とくに「引っ張ると伸びる」「押すと縮む」といった挙動は、バネやゴムといった弾性体において自然な振る舞いとされてきました。

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物理の常識「引っ張ると伸びる」 / Credit:Canva

そして、「スナッピング(snapping)」という現象もあります。

これは、ある構造に力をかけていったとき、ある閾値を超えると一気に別の形へと切り替わる現象を指します。

たとえば、ペンのノック機構を押すと「カチッ」と跳ねて切り替わる動き、これもスナッピングの一種です。

これらの動きでは、ゆっくりと力が加わっていきながら、ある瞬間で急激な形の変化が生じます。

そしてこれらのスナッピング現象に共通する基本的な特徴は、構造の変形が外から加えた力の方向と同じ向きに起こるという点です。

押せば押し込まれ、引けば伸びるといったように、力に沿って変形が進み、その途中で一気にスナップ的な動きが発生します。

では、加えた力と逆方向のスナッピングを生じさせることは可能でしょうか。

AMOLFの研究チームは、そんな新しい構造の開発に取り組みました。

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3種のバネを組み合わせて、引っ張ると縮む構造「カウンタースナッピング」の開発に成功 / Credit:AMOLF

彼らはその現象を「カウンタースナッピング」と名付けました。

それは、引っ張る方向に力を加え続けると、ある一定のラインでパチンと「縮む」ような構造です。

これまで、この現象は理論上で示されるに留まり、実際に現実の構造として再現するのは難しいとされてきました。

理由は明確で、そんな構造を作るには、通常の材料の性質を超えて、力の流れそのものを設計する必要があるからです。

今回、研究チームは、この課題に対して非常にユニークなアプローチを取りました。

彼らは、構造を作る素材自体の特性を変えるのではなく、複数の非線形バネ(弾性要素)を組み合わせることで、全体としてカウンタースナッピング挙動を示す構造を設計したのです。

その構造は、3種類の異なるバネを計5つ使用したシンプルなものです。

重要なのは、これらのバネの力–変位の性質がすべて異なる点です。

そしてこれらを組み合わせることで、構造に一定の引張力が加わると、そのバランスが崩れて、構造が一気に「カクン」と折れたように形を変え、結果として長さが短くなるという動きが発生するのです。

それでは、こうした構造にゆっくりと重りを載せていった場合、実際にはどんな動きをするのでしょうか?

次ページ力が加わっていくと「急に短くなる」構造の応用例

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