引っ張ると縮む構造「カウンタースナッピング」
私たちが日常で扱うほとんどすべての物体は、力を加えるとその方向に変形します。
とくに「引っ張ると伸びる」「押すと縮む」といった挙動は、バネやゴムといった弾性体において自然な振る舞いとされてきました。

そして、「スナッピング(snapping)」という現象もあります。
これは、ある構造に力をかけていったとき、ある閾値を超えると一気に別の形へと切り替わる現象を指します。
たとえば、ペンのノック機構を押すと「カチッ」と跳ねて切り替わる動き、これもスナッピングの一種です。
これらの動きでは、ゆっくりと力が加わっていきながら、ある瞬間で急激な形の変化が生じます。
そしてこれらのスナッピング現象に共通する基本的な特徴は、構造の変形が外から加えた力の方向と同じ向きに起こるという点です。
押せば押し込まれ、引けば伸びるといったように、力に沿って変形が進み、その途中で一気にスナップ的な動きが発生します。
では、加えた力と逆方向のスナッピングを生じさせることは可能でしょうか。
AMOLFの研究チームは、そんな新しい構造の開発に取り組みました。

彼らはその現象を「カウンタースナッピング」と名付けました。
それは、引っ張る方向に力を加え続けると、ある一定のラインでパチンと「縮む」ような構造です。
これまで、この現象は理論上で示されるに留まり、実際に現実の構造として再現するのは難しいとされてきました。
理由は明確で、そんな構造を作るには、通常の材料の性質を超えて、力の流れそのものを設計する必要があるからです。
今回、研究チームは、この課題に対して非常にユニークなアプローチを取りました。
彼らは、構造を作る素材自体の特性を変えるのではなく、複数の非線形バネ(弾性要素)を組み合わせることで、全体としてカウンタースナッピング挙動を示す構造を設計したのです。
その構造は、3種類の異なるバネを計5つ使用したシンプルなものです。
重要なのは、これらのバネの力–変位の性質がすべて異なる点です。
そしてこれらを組み合わせることで、構造に一定の引張力が加わると、そのバランスが崩れて、構造が一気に「カクン」と折れたように形を変え、結果として長さが短くなるという動きが発生するのです。
それでは、こうした構造にゆっくりと重りを載せていった場合、実際にはどんな動きをするのでしょうか?