数千匹のナマズが「壁を登る」
研究チームがこの発見を記録したのは、ブラジル西部に位置するマットグロッソ・ド・スル州のアキダウアナ川(Aquidauana River)。
雨季の始まりである11月、夕暮れ時の岩場にて、数千匹におよぶナマズの群れが一斉に岩壁を登るという驚くべき光景が展開されていました。
観察されたナマズは、Rhyacoglanis属に分類される非常に小さな種で、黒と黄色の縞模様を持ちます。
学名は「Rhyacoglanis paranensis」です。
体長は最大でも9cm程度。
普段は川底に生息しており、人の目に触れる機会が非常に少ない、希少な種です。
このナマズが垂直に近い岩壁を登っていく様子は、まさに異様ともいえる光景でした。
魚たちは、水の流れがある壁面に体を押し当て、ひれを巧みに使いながら、重力に逆らって上へ上へと進んでいったのです。
研究者によると、この行動はナマズが胸びれや腹びれを広げて岩との密着性を高め、体と岩の間に生じる吸着力によって壁面に張りつくことで可能になっていると考えられています。
では、なぜこのような奇妙な行動がこれまで知られていなかったのでしょうか?
理由の一つは、このナマズの観察が非常に難しいことにあります。
Rhyacoglanis属の魚は元来、個体数が少ない上に生息域が遠隔地に限られており、研究対象とされる機会が少なかったのです。
また、この登攀行動が発生するのは、雨季初期のごく限られた時期、かつ夕方から夜にかけての短時間に集中しているため、偶然の条件が重ならなければ目撃することすら困難です。
実際、今回の発見も環境保護に従事する現地警察が偶然目撃したことが契機となっており、その通報を受けた研究者たちが現地での調査を開始したという経緯があります。
つまりこの発見は、フィールド観察の偶然性と重要性を改めて浮き彫りにしたものでもあるのです。
では、今回の「壁を登るナマズ」の発見はどんな点で重要なのでしょうか。