壁を登るナマズが教えてくれること
この発見が持つ意義は、「珍しい行動が見つかった」という単純な話にとどまりません。
まず、これは世界で初めて、小型ナマズによる集団的かつ機能的な岩壁登攀行動が正式に記録された事例です。
魚類の中には、遡上能力のある種も存在しますが、それらの多くは水流を利用して滝を遡るため、垂直に近い壁を登るという行動はまったく別物です。
このナマズの登攀は、彼らが生息域の上流へと移動するための「生存に不可欠な行動」かもしれません。
小さな体で壁を登り、上流を目指す姿は、過酷な環境下でも適応しようとする生命のたくましさを感じさせます。
しかし同時に、この行動は生態系の脆弱さと、人為的影響への懸念も浮かび上がらせます。
今回ナマズたちが登っていたのは自然の岩壁でしたが、もしその場所にコンクリート製のダムや人工堤防が建設されていたら、彼らは上流にたどり着けなかった可能性が高いのです。
Rhyacoglanis paranensisのような小型魚類は、大型魚用に設計された魚道では対応が難しく、結果として生息域の分断や繁殖機会の喪失につながるおそれがあります。
こうした行動が自然下で観察されたことは、将来的な河川管理や保全政策を見直すうえで貴重な知見となるでしょう。
特に南米の熱帯域では、流域開発やダム建設が急速に進んでおり、それに伴う生物多様性の損失が懸念されています。
また、ナマズが登攀を行う詳細な動機・条件や、登る際に作用する筋肉の動きやエネルギー代謝、またこの行動が繁殖行動とどう関係しているのか、といった詳細はまだ明らかになっていません。
今後は、追跡用タグ技術や定点観察の強化を通じて、このナマズの生態をさらに深く掘り下げることが求められます。
小さなナマズが壁を登る姿は、私たちに「まだ知られていない自然のドラマ」が水の中にあること教えてくれるはずです。
近江ヨシノボリも少しの水量で、1メートル位?なら登りますね。