レオナルド・ダ・ヴィンチのDNAを回収できたかもしれない
レオナルド・ダ・ヴィンチのDNAを回収できたかもしれない / Credit:Biological signatures of history: Examination of composite biomes and Y chromosome analysis from da Vinci-associated cultural artifacts
biology

レオナルド・ダ・ヴィンチのDNAを回収できたかもしれない

2026.01.07 21:30:31 Wednesday

アメリカのロックフェラー大学(Rockefeller University)を含む複数の研究機関による国際共同研究によって、レオナルド・ダ・ヴィンチにゆかりがある絵画や手紙の表面から微量のDNA断片を採取して解析することに成功しました。

採取されたDNAには人間だけでなくカビや細菌、植物、ウイルスなど様々な生物由来のかけらが混ざっており、この“生物のごった煮”からレオナルド・ダ・ヴィンチ本人に由来する可能性もあるY染色体(男性から息子へ受け継がれる遺伝情報)の手がかりが検出されたのです。

作品の中にしみ込んだ微量なDNAから、絵がたどってきた環境や人の手の歴史を読み解こうとする姿勢は、「本当のダ・ヴィンチ・コード」を科学で探ろうとする試みと言えるでしょう。

私たちは本当に、名画から歴史上の天才のDNAをすくい上げられるのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年1月6日に『bioRxiv』にて発表されました。

Biological signatures of history: Examination of composite biomes and Y chromosome analysis from da Vinci-associated cultural artifacts https://doi.org/10.64898/2026.01.06.697880

「汚れ」から「証拠」へ──文化財に残るDNAの見方の転換

「汚れ」から「証拠」へ──文化財に残るDNAの見方の転換
「汚れ」から「証拠」へ──文化財に残るDNAの見方の転換 / Credit:Canva

私たちが毎日さわっているスマートフォンの画面には、指紋や皮脂だけでなく、その日どこに行き、何を触ったかという「生活の痕跡」がびっしり残っています。

掃除をさぼった机の上やキーボードも、目には見えないだけで、細菌やカビ、花粉、そして自分の細胞が積もった“生物のごみ置き場”になっています。

何百年も前の絵や手紙も、実はそれと同じです。

画家が描くときに触れた指、工房で支えた弟子の手、修復作業の手袋、展示室の空気やホコリ、それらが少しずつ紙や絵の具にしみ込み、文化財は「環境DNAの貯金箱」になっていきます。

一方で、従来、文化財に残ったDNAは「汚れ」扱いでした。

保存や修復の世界では、カビや細菌は作品を傷める「敵」として、いかに減らすかが重視されてきたのです。

しかし近年、「その汚れこそ歴史の証拠になるのではないか」という発想が生まれました。

紙や絵の具に紛れこんだDNAを調べれば、どんな植物の花粉が舞っていたのか、どんな人たちが触れてきたのか、どんな微生物が住みついていたのかという、“もう一段深い歴史”が見えてくるかもしれません。

論文ではこれを「歴史の生物学的署名」と呼んでいます。

とはいえ、ここには大きな壁があります。

文化財から取れるDNAは「低バイオマス(量がとても少ない)」で、現代の人や実験室からの混入にとても弱いのです。

しかしあえてその困難に挑む研究者たちがいました。

調査対象となったのはレオナルド・ダ・ヴィンチです。

研究者たちは絵画などダ・ヴィンチゆかりの品からDNAを読み解ければ、本人の肉体に触れずに“遺伝子の声”を聞くこともできると考えたのです。

果たしてダ・ヴィンチ由来の品々から、彼のDNAを回収するという偉業は達成されたのでしょうか?

次ページ「本当のダ・ヴィンチ・コード」はどこまで科学で読めるのか

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