父親マウスを「世話好き」から「虐待者」に変化させる遺伝子を発見
研究の対象となったのは、Rhabdomys pumilioというマウスです。
この種は珍しく、オスが子を舐めたり、毛づくろいをしたり、体で包んで温めたりと、積極的に育児に関わることが知られています。
しかし、すべてのオスが模範的な父親になるわけではありません。
あるオスは、子を丁寧に世話する「スーパーお父さん」になり、別のオスは、子をほとんど無視する「ネグレクトお父さん」 になります。
そしてなかには、子に攻撃して傷つけてしまう「虐待者」になる個体もいます。
同じ種で、遺伝的背景も大きくは違わないはずなのに、どうしてここまで行動が分かれるのでしょうか。
研究チームはまず、育ち方の違いに注目しました。
離乳後から成体になるまでのオスを、1匹ずつ分けて飼う「単独飼育」と、複数のオスを一緒に入れる「集団飼育」の2条件で育てました。
すると、単独で育ったオスは高い確率で育児行動を示し、集団で育ったオスは子に対して無関心または攻撃的になる傾向が強いことが分かりました。
社会的な密度が高い環境では、父性行動が抑えられやすいのです。
次に研究者たちは、子マウスを見せたときに脳のどこが反応するのかを調べました。
その結果、視床下部にある「内側視索前野(MPOA)」という領域が強く活動することが分かりました。
この場所は、他のげっ歯類で母性行動の中枢として知られている部位です。
育児的なオスでは、子に触れたときのMPOAの活動が特に高く、無関心・攻撃的なオスでは活動が低いままでした。
つまり、オスもメスも共通の「育児中枢」を持っており、その働き方に違いが出ているようなのです。
さらに研究チームは、MPOAの細胞レベルでの遺伝子発現を調べました。
その結果、育児行動の強いオスと、子殺しを示すオスとのあいだで、最もはっきりした差が出たのが「Agouti(アグーチ)」という遺伝子でした。
育児行動が多いオスでは、この領域でのAgouti発現が低く、子に攻撃してしまうオスでは発現が高かったのです。
Agoutiがどのように父性行動を弱めているのか、その仕組みと意味については次項で詳しく見ていきます。



























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