感謝で親切は増えても、「誰かがやるだろう」は残った
詳しく分析すると、今回の研究では2つの効果が同時に現れていました。
まず、感謝条件の参加者は中立条件の参加者より、ポイントを相手に渡す可能性が高くなっていました。
また探索的な分析でも、実際に強い感謝を感じていた人ほど、全体として資源を分けやすい傾向が見られました。
つまり今回の実験では、感謝によって援助行動そのものが全体として増えていたのです。
一方で、穏やかな対人経験を思い出した参加者でも感謝の気持ちが少し高まり、中立条件より援助行動がやや増えていました。
そのため、今回の結果だけから、感謝だけが他のポジティブな感情とはまったく異なる特別な力を持つとまで言うことはできません。
そして研究の核心となるのが、潜在的な援助者の人数との関係です。
助けられる人が1人から3人、5人と増えるにつれて援助しにくくなる傾向は、感謝条件でも残っていました。
しかも、その下がり方は穏やかな感情条件や中立条件と大きく変わりませんでした。
言い換えるなら、感謝によって援助行動の水準は上がっても、「ほかにも助けられる人がいると、自分が助ける可能性が下がる」という傍観者効果そのものは弱くならなかったのです。
研究者らはこの結果について、感謝によって生まれる援助への動機と、集団の人数に応じて自分が援助するかを判断する働きが、ある程度独立している可能性を指摘しています。
たとえば感謝によって誰かを助けようとする気持ちが強まったとしても、自分以外にも4人の援助者がいる状況では、「ほかの誰かが助けるかもしれない」という判断まで消えるわけではないのかもしれません。
ただし、この研究は匿名のオンライン環境で行われ、参加者は他の人の行動を見ることも、互いに相談することもできませんでした。
また、1人が助ければ十分という設定だったため、複数人の協力が必要になる現実の緊急事態とは状況が異なります。
それでも今回の結果は、感謝によって人の援助行動を増やすことはできても、集団の中で生じる「誰かがやるだろう」という傾向まで消えるわけではないことを示しています。
人の善意を高めることと、「自分が助ける」という一歩を踏み出させることは、別々に考える必要があるのかもしれません。































