ADHDの脳と刺激

ADHD(注意欠如・多動症)は、集中が続かない、落ち着いていられない、思いつきで行動してしまうなどの特徴がある発達の障害です。
子どもだけでなく、大人になってからも日常生活や仕事、勉強で困ることが少なくありません。
ADHDの人の脳では、やる気や注意に関わる「ドーパミン」という物質をコントロールする機能がうまく働かないことが知られています。
ドーパミンの量が少なすぎると、ぼんやりして集中できません。逆に刺激が強すぎると、気が散ってしまいます。
ADHDの人はそのバランスがとくに難しいのです。
退屈なときにイライラしやすいのも、そのせいかもしれません。
そのため、ADHDの治療では、ドーパミンを増やして脳の覚醒レベルをちょうどよく保つために「メチルフェニデート」という薬(リタリンなど)がよく使われます。
メチルフェニデートはドーパミン/ノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、これらをシナプス間隙に長くとどまらせる作用があります。
でも、薬だけが解決方法ではありません。最近の研究では、音楽にも同じように脳を活性化させる効果があることがわかってきました。
たとえば、好きな音楽を聴くと「気持ちが明るくなってやる気が出た」と感じることはありませんか?
それは音楽がドーパミンの分泌を助けてくれているからなのです。
実際に世界26か国の調査では、大人たちは週に平均20時間以上も音楽を聴いているというデータがあります。
「カフェのBGMで勉強がはかどる」「好きな曲でテンションが上がる」という経験がある人も多いでしょう。
でも、ADHDの人が実際に日常生活でどのように音楽を使っているのか、これまであまり詳しく調べられてきませんでした。
「音楽を流すと集中できる」という人もいれば、「かえって気が散ってしまう」という人もいて、科学的に結論が出ていなかったのです。
この疑問に向き合ったのが、カナダのモントリオール大学の研究チームです。
以前ある親御さんから「うちの子は音楽を聴きながらの方が勉強できるように見えるけど、それって良いことなんでしょうか?」と聞かれた経験をきっかけに、このテーマを深く掘り下げることになりました。
研究者たちは「ADHDの傾向がある若者は、ふつうの人と比べて、音楽の聴き方にどんな違いがあるのだろうか?」という問いをもとに、大規模な調査を行いました。
音楽は、ADHDの人にとって“集中の助っ人”になっていたのでしょうか?