行き来できる並行宇宙ネットワークの理論モデルが発表
行き来できる並行宇宙ネットワークの理論モデルが発表 / Credit:川勝康弘
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行き来できる並行宇宙ネットワークの理論モデルが発表

2026.02.02 19:00:36 Monday

もし、物理法則の違う「別の宇宙」と、光や信号をやり取りできるとしたらどうでしょうか。

タイムマシンやワームホールが登場するSFの世界ではおなじみの発想ですが、現実の物理学では、並行宇宙はあっても「お互いに行き来できない」ものとして語られることがほとんどでした。

量子力学の多世界解釈にせよ、インフレーション宇宙論が描くマルチバースにせよ、世界は枝分かれしたり泡のように増えたりしても、別の宇宙と通信する道筋は基本的に閉ざされています。

ところが「ホログラフィー」と呼ばれる理論を土台にして、数式の上で行き来可能な並行宇宙ネットワークを理論モデルとしてまじめに設計してしまった研究が報告されました。

中国の中山大学(Sun Yat-sen University, SYSU)で行われた研究によって、性質の違う複数の宇宙を一本の“配線”のように接続し、そこを光が確率的に通り抜けられることが理論的に示されたのです。

具体的には、通常の平坦な宇宙と、加速膨張する宇宙、そして逆向きに曲がった宇宙をひとつの「結び目」でつないだり、重力が働く宇宙と、重力を持たない世界とをくっつけたりすることに成功しています。

論文のタイトルにも堂々と「Traversable Parallel Universe(行き来できる並行宇宙)」という言葉が入っているのも印象的です。

さらに重要なのは、この並行宇宙のモデルが、光などの通過について、ワームホールのように「怪しい負のエネルギー」を持つ物質に頼っていないという点です。

「宇宙をネットワークとして見る」とはどういう発想なのか、そしてホログラフィーという考え方を使うと、なぜそんな奇妙な宇宙の配線図ができるのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年1月29日にプレプリントサーバーである『arXiv』にて発表されました。

Holographic Network and Traversable Parallel Universe https://doi.org/10.48550/arXiv.2601.21206

宇宙そのものをネットワークとして見るという発想

宇宙そのものをネットワークとして見るという発想
宇宙そのものをネットワークとして見るという発想 / Credit:川勝康弘

私たちの身の回りには、道路網や電車の路線図、コンセントと家電をつなぐ電気配線、インターネット、さらには脳の中の神経回路など、さまざまなネットワークがあります。

どれも「点」と「線」だけでできていて、点は交差点や駅、神経細胞のような“ハブ”の役割を持ち、線はそこを結ぶ道路やレール、神経線維のような“通り道”の役割を持っています。

線と結び目、たったこれだけのルールなのに、都市交通から情報伝達、人工知能まで、とても複雑な仕組みを表現できてしまうのがネットワークの魅力です。

私たちの身近にあるパソコンやスマホでメールを書いたり動画を見たりできるのも、集積回路チップの上を走る細い配線や、格子状に組まれたナノスケールの導線から作られたネットワークとしての振る舞いの結果です。

ただこのとき、基本的な(当然な)約束があります。

結び目に入ってくる電流の合計と、出ていく電流の合計が同じでなければならないというものです。

一方、今回の論文で研究者たちが考えているのは、「もし物理の世界そのものをネットワークとして表したらどうなるか」という、少し変わった発想です。

ここでは、たくさんの宇宙がただバラバラに存在しているのではなく、電気回路のように「線」と「結び目」でつながったネットワークとして登場します。

もっと直感的にいうと、一本の線を「1つの宇宙(宇宙の情報を示したもの)」と考え、その上を粒子の波やエネルギーが行ったり来たりしている、というイメージで構いません。

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図は、「宇宙をネットワークとして見るときの、いちばん素朴なモデル」を絵にしたものです。青い点が「結び目(ノード)」で、青い線が「線(エッジ)」にあたります。左側には、真ん中に1つだけ結び目があり、そこから何本もの線が放射状に延びている絵が描かれていて、これは「1つの交差点にたくさんの道が集まっている」ような、ごく単純なネットワークの例です。右側には、青い点が2つあり、そのあいだを何本かの線が行き来しています。こちらは「2つの駅のあいだに、複数の路線が走っている」ようなイメージです。

論文の図1では、一本の線から三本が分かれる「Y字」のネットワークや、星型に線が集まったネットワークの絵が描かれていますが、これらの青い線一本一本が、その「細い宇宙」にあたります。

ただこのとき、いくつかの線から流れ込むエネルギーや粒子の出入りにおいて、先ほど電子の例のように、入ってきた量と出ていく量が同じになる、つまり全体としては増えも減りもしないという保存則が成り立つはずです。

今回の論文ではこの基本を「ネットワーク版の保存則」として出発点に置いています。

そしてこのようなこのような奇抜な発想を、ちゃんとした理論として書き下ろすために使われているのが「ホログラフィック原理」という枠組みです。

ホログラフィック原理とは、ざっくり言うと「三次元の世界の情報が、その世界をおおっている二次元の“壁”にすべて書きこまれている」と考えるアイデアです。

コラム:ホログラフィック原理は机上の空論ではない

「3次元が2次元に落とし込める」という概念をすぐには信じるのは難しいかもしれませんが、その考え方を発展させたホログラフィー対応(AdS/CFT、時空と量子場の対応関係の理論)が高エネルギー物理や物性物理の具体的な問題で数多くの成功例を出していることから、現在の理論物理では有力な原理候補として真剣に研究されています。またさまざまな実験・観測結果と上手く噛み合う事例がいくつか報告されています。そのため現在では多くの研究者が「ホログラフィック原理は、少なくとも自然の一面をかなり正確にとらえているらしい」と考えています。今回のような並行宇宙ネットワークの議論にもホログラフィック原理を自信を持って当てはめるのは自然な流れとも言えるでしょう。

今回の論文では、このホログラフィーの考え方を「ネットワーク付きの宇宙」に拡張しています。

一枚の壁の上に、線と点からなるネットワークの「影」が描かれているとしましょう。

そこでは、さきほどの1本の線が1つの宇宙の情報を示すネットワークが広がっていて、粒子やエネルギーが線に沿って行ったり来たりしています。

無数の並行世界の情報が書かれているものが「平面上」にあると考えるのです。

ですが本番はこれからです。

「平面の上の世界」は無数の並行世界の情報が書かれた設計図だと思ってください。

ホログラフィック原理では、「この一つ一つの線や点には、三次元側の世界に対応するものがあるはずだ」と考えます。

この宇宙を繋ぐ二次元のネットワークの「点」や「線」は、ただの絵ではなく、より本質的な何かの「影」だと考えるわけです。

つまり、「壁の上に一本の線があるなら、三次元側にはそれに対応する一本の“何か”が存在しているはずだよね」という発想です。

そこで論文では、その「三次元側の何か」を、細長く伸びた“宇宙の枝”として表現することにしました。

壁の上にある一本の青い線を、三次元側では一本の細長い枝に対応させるのです。

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図はネットワークを、「ホログラフィーの考え方を使って三次元の宇宙側に持ち上げるとどう見えるか」を示したものです。手前の青い線と青い点は、FIG1と同じく、二次元の「宇宙ネットワーク」の線と結び目です。その奥には四角いパネルのようなものがいくつも並んでいて、これが三次元側に生えた「宇宙の枝」の断面のイメージになっています。そして、それらの枝どうしを結んでいる赤い線が「ネットブレーン」と呼ばれる膜で、違う宇宙どうしを物理的に接続する“つなぎ目”の役割を持っています。つまり、青い線と点で描かれたネットワークを、三次元空間の側から見ると、「いくつもの宇宙のかけら(四角)が、赤い膜で結ばれている風景」として表現できる、ということを、この図は視覚的に説明しているのです。イメージとしては、壁から向こう側の空間に向かって、ホースやチューブのような細いトンネルが「にょきっ」と生えている感じを思い浮かべてみてください。この細いトンネルの中身こそが、ある線(宇宙)の情報から復元された「小さな宇宙」です。トンネルの内部では、時間が流れ、空間が私たちがふだん感じているような三次元的な広がりを持ち、重力もちゃんと働いています。つまり、壁の上の一本の線は、「その宇宙の情報が書いてある二次元の姿」であり、三次元側のトンネル状の枝は、「その情報から再現された立体的な宇宙本体」だと考えるのです。

論文の図2を見ると、いくつもの宇宙のかけらが並び、その境界どうしが赤い線でつながれている様子が描かれています。

つまり、この研究では「線の上の量子ネットワーク」と「枝分かれした重力宇宙」が、一対一で対応していると考えるわけです。

ここまでの話は、実はすでに先行研究でかなり進んでいました。

それらの研究では、枝の長さを変えることで真空のゆらぎによるカシミール力が引力になったり斥力になったり切り替わることや、「ネットワークの複雑さ(ネットワークエントロピー)」と呼ばれる量がネットワークの複雑さを測るものさしになることなど、いくつかの面白い性質が見つかっています。

ただ先行研究では、線に描かれている情報がどれも同じようなものであり(同じ宇宙で)、それを三次元化させたときの重力も、私たちに馴染みのあるものに限られていました。

しかし今回の論文は、その枠組みを一気に広げ、一つひとつの「線」は、それぞれ重力の強さや物質の種類が違う、性格のちがう宇宙の情報が閉じ込められていると考えます。

ある線(宇宙の情報)では存在する粒子が別の線(宇宙の情報)では存在しなかったり、電子に相当するような粒子の持つ電荷の値が異なっていても構いません。

(※専門的に言うと、各線にはその宇宙ごとに違う「共形場理論(対称性の高い量子場の理論)」が割り当てられている、とみなしてよいということです。)

その上で、先に述べたネットワークの点を出入りするエネルギーなどの保存則が成り立つのかを調べることにしたのです。

先行研究が同じ種類の並行世界のネットワークを描くことに成功したとするなら、今回は全く違う量子法則を持った宇宙がネットワーク上に存在できるか調べたとも言えるでしょう。

果たして結果はどのようなものになったのでしょうか?

次ページ『並行宇宙への回線』は理論上開かれている

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