「鼻に直接」新型コロナウイルスを注入されても大丈夫な人がいる
風邪をひく人とひかない人。
かつて人々は、その違いをあくまで「確率の問題」と考えていました。
古い諺に「バカは風邪をひかない」というものもありますが、知能と風邪の相関関係を本気で信じていた人はいなかったでしょう。
ですが新型コロナウイルスのパンデミックが起きると、発症する人としない人の間には単なる確率以外の要因、たとえば民族の違いや体質の違いなどに焦点があてられるようになりました。
実際、いくつかの疫学研究では発症率や重症化の度合いに明らかに地域差があることが報告されました。
日本人が欧米人に比べて新型コロナウイルスの「影響を受けにくかった」というニュースを聞いた人もいるでしょう。
しかし疫学的な観点とは別に、個人レベルでの抵抗力の差は解明されていませんでした。
ここで言う個人レベルとは「田中さんは新型コロナウイルスにかかったけど、一緒にいた鈴木さんはかからなかった」という場合です。
現代では、このような個人レベルの差は1人1人の免疫能力に違いあることが原因と理解されています。
ただ、その違いがいったいどんなメカニズムに基づいているかは漠然としており、具体的なことは不明です。
そこで今回、国際的な研究チームは、個人レベルの抵抗力の差を調べるために、非常にユニークな人体実験を行いました。
調査にあたってはまず、新型コロナウイルスに1度も感染したことがなく、かつワクチンを1度も接種したことがない16人の若い健康な成人が集められました。
未感染かつワクチン未接種な人を選んだのは、新型コロナウイルスにはじめて感染した時の体のナチュラルな反応を調べるためです。
次に研究者たちはこの16人の鼻の中に、新型コロナウイルスのオリジナル株を含んだ液体をピペットで注入ししました。
鼻から咽頭にかけての領域は、ウイルスが最初に侵入する領域であることが知られています。
また被験者たちの鼻に注入されたウイルス量は、ほぼ確実に感染を引き起こすレベルでした。
(※新型コロナウイルスは少量でも高い感染性を持つことが知られています)
そして28日間に渡り、定期的に鼻スワブや血液採取などを通じてウイルス検査が実行されました。
結果16人のうち6人は持続的に陽性反応を示し、新型コロナウイルスの症状を発症しました。
鼻に直接ウイルスを注入されたのだから、当然と言えば当然でしょう。
ですが3人ではウイルス検査の陽性と陰性が何度も切り替わる「一過性」の感染(つまり微妙な感染)を起こしました。
一過性の感染を起こした人は、検査ではたまに陽性が見られることはあっても、症状はみられませんでした。
ですが驚くべきことに、残りの7人では症状がないだけでなく、実験期間(28日間)を通じてウイルス検査の結果が陰性であり、新型コロナウイルスに対する高い耐性を持つことが判明しました。
この結果は、1度も新型コロナウイルスに感染したことがなく、ワクチンを接種したことがない人の間でも、抵抗力に大きな差があり、一部の人々は超人的な耐性をもつことを示しています。
つまり、パンデミックの渦中、一部の人々がリスクが高い場所でも新型コロナウイルスにかからなかったのは運や確率の問題ではなく、本当に高い耐性を持っていた可能性が示されたのです。
しかしそうなると気になるのが、メカニズムです。
人類社会を大混乱に陥らせ、多くの人々の命を奪い、今なお後遺症を残す新型コロナウイルスに対して、一部の人々はなぜ超人的な耐性を持っていたのでしょうか?