ガリレオ衛星のうち3つに働くラプラス共鳴
ラプラス共鳴のラプラスと聞いて、とっさにモンスターを思い浮かべた人、先生怒らないから手を挙げなさい!というぐらい、令和になっても有名なラプラス。
ガリレオ衛星に働く「ラプラス共鳴」の名前は1749年に生まれたフランスの数学者・天文学者であるピエール=シモン・ラプラスから取られています。
ラプラスは天体力学を体系化し、太陽系起源の星雲仮説を提唱し、確率論を発展させた天文学者であり数学者です。

また、フランス大革命、ナポレオン帝政、王制復古の動乱期を通じて、粛清されることなく高い地位を維持しました。当時はギロチン刑に処された科学者もいたのですが、ラプラスは生き延びました。
世渡りもうまい……いや、尊重される才能を持つ人だったようです。
ラプラスは太陽系の惑星がばらばらな位置に動いてもおかしくないのに、そうならないのは「これは惑星の軌道を安定させる何らかのメカニズムがあるな?」と考え、そのメカニズムを共鳴理論という形で説明しました。
天体力学を数理的に体系化し、惑星の摂動理論を発展。そして太陽系が「数学的に安定」であることを証明したのです。
凄くないですか?
そして、天体の重力がお互いに及ぼす影響を解析して、長期的に安定した軌道を維持する仕組みを明らかにしたのです。
ガリレオは「天文学の父」と呼ばれますが、ラプラスは「天体力学の父」と呼ばれています。
そして、3個か、それ以上の天体の公転周期が「互いに簡単な整数比になっている場合の共鳴」を「ラプラス共鳴」と呼びます。
これが木星のガリレオ衛星のうち3つに見られます。
中心天体である木星の回りを公転する3つのイオ、エウロパ、ガニメデの公転周期は1:2:4という簡単な整数比となっている状態です。
これを平均運動共鳴といい、3個の衛星が共鳴の状態にあるので、ラプラス共鳴と呼ばれます。
共鳴の結果、この3つの衛星が近接遭遇を起こさないため、軌道が安定化しています。軌道交差を起こすようなことがあれば弾き飛ばされてしまいます。
3つの衛星が安定した軌道を保っています。
木星の衛星イオ、エウロパ、ガニメデの3つの軌道はラプラス共鳴です。公転周期は1:2:4。太陽系でラプラス共鳴が見られるのは木星のガリレオ衛星だけです。
今のような精密な観測機器があるわけでもなかった時代にこれを発見したラプラスは偉大ですね。
名前が残るわけです。
この共鳴はとてもレアなものであると同時に、カリスト以外のガリレオ衛星に特別な関係を与えました。この3つの天体は絶妙なタイミングで重力の影響を与え合っています。地獄の同盟とでも言うべき過酷なものです。
地球から低倍率な望遠鏡で観測するだけなら美しい金色の小さな粒に見えるガリレオ衛星ですが、その実、イオは地獄の入口です。
ギリシア神話ではゼウスの妻、ヘラの女官だったイオ(その後牝牛の姿にされた)ですが、ガリレオ衛星でのイオはそんなたおやかな存在ではありません。
ガリレオ衛星の中で一番木星に近いイオは、木星とラプラス共鳴によって極端な潮汐加熱を受けており、活発な火山活動が続いていることで知られています。
イオの火山の数は400以上で、中でもいくつかは硫黄と二酸化硫黄の噴煙を500kmの高さに達しています。地球上の一番大きな噴火、プリニー式噴火の噴煙の高さは10km以上となっていますが、イオはその50倍の噴煙が見られるということで、ちょっと想像を絶する規模ですね。
イオの表面は多くの溶岩流が流れ、硫黄、二酸化硫黄で覆われています。火山ガスの漂う地獄谷を遥かに超えた灼熱地獄。ガリレオ衛星地獄の一丁目なのです。

次、イオの次に木星から近いガリレオ衛星、エウロパです。
エウロパは一見、静かに見えます。灼熱地獄の次は氷結地獄。氷の衛星です。極低温の地表はひび割れた氷で、これは木星の潮汐力によって絶えず変形し続けています。氷の下の地下には広大な海が広がっていると考えられています。

3つめはガニメデです。これは太陽系にある衛星で最大で、独自の磁場を持っています。
独自の磁場を持つ衛星は太陽系で唯一の存在です。とても大きな衛星で、太陽系の天体の中でも9番目です。衛星の中で、じゃないですよ。天体の中で9番目なうえ、その半径は水星よりも大きいのです。
内部には地球より多くの水を持つ海があるのではと考えられていますが、地下は対流する鉄で、そのために磁場を持っていると考えられています。その磁場は木星の磁場に埋まっています。
表面には同心円状の溝状地形が見られ、これは小惑星の衝突でできた最大半径7800kmの多重クレーターだと推測されているほか、表面の1/3は小型の小惑星が衝突したクレーターだらけです。
ガニメデは隕石地獄とでもいいたくなるほどガンガン小惑星にぶつかられている衛星だったのです。

それでもガリレオ衛星は安定した軌道で木星の回りを回っています。それぞれギリシア神話に出てくるゼウス(木星)の愛人やお気に入りの美少年という美しい雰囲気を漂わせながら、その実はそれぞれの衛星がとても恐ろしい世界なのでした。
地球のような惑星で暮らしていると、ちょっと想像がつかない激しさです。
低倍率の望遠鏡で観測していたガリレオも、ガリレオ衛星の名付け親であるシモン・マリウスも、その恐ろしさまではわからなかったでしょう。
もし知ったら驚くでしょうね。
