女性がマルチタスク上手に見える理由――男性は忙しくなると黙る
女性がマルチタスク上手に見える理由――男性は忙しくなると黙る / Credit:Canva
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女性がマルチタスク上手に見える理由――男性は忙しくなると黙る

2026.08.04 22:00:44 Tuesday

「全財産と貴重品を全部失うのと、今まで撮った写真を全部失うのと、どちらがいいですか。その理由も教えてください」

料理をしながら、この質問にすらすら答えられるでしょうか。

しかも20秒後には、もう次の質問が飛んできます。

その間も目の前の画面には書き留めるべき単語が次々と流れ、隣の机ではさらに別の作業が待っています。

イギリスのブルネル大学(Brunel)などで行われた研究によって、この目の回るようなマルチタスクを実験室に持ち込み、男女のマルチタスク能力を比較しました。

すると用意された5つの課題のうち、4つは男女ほぼ互角だったのです。

差がついたのは、残るたった1つ、「会話」だけでした。

男性は投げかけられた質問の27.7%を答えないまま通り過ぎたのに対し、女性が答えなかったのは11.6%。2倍以上の開きです。

研究者は、視覚と手を使う作業に性差はほとんどないが、マルチタスクをしながら会話を続ける能力には顕著な性差がある、と述べています。

そして研究チームは、ここからさらに一歩踏み込み、この小さな差こそが、「女性はマルチタスクが得意」という世間の思い込みを支えているのではないかと考えて、その仕組みを確かめにいったのです。

この研究は2026年5月、心理学の専門誌『Psychological Research』に発表されました。

Are women better at multitasking than men or is it just a stereotype? https://www.eurekalert.org/news-releases/1135679
Men talk less than women during multitasking https://doi.org/10.1007/s00426-026-02279-5

「女性はマルチタスクが得意」というのはどこまで本当か?

「女性はマルチタスクが得意」というのはどこまで本当か?
「女性はマルチタスクが得意」というのはどこまで本当か? / Credit:Canva

「女性はマルチタスクが得意」。この見方は、世界中に驚くほど広く浸透しています。

ところが不思議なことに、これまでの研究をいくら探しても、マルチタスクの能力に男女差ははっきりと現れてきませんでした。

それなのに思い込みだけは根強く残っています。

いったいこの通念は、どこから生まれたのでしょうか?

この謎に挑んだのが、ブルネル大学のアンドレ・J・サメイタット氏とティ・セント・ジョージズ大学のダイアナ・P・サメイタット氏です。

二人は夫婦で、しかも二人の子どもを育てた経験を持っています。

調査にあたってはまず、参加者は立ったまま、3つの机の間を行ったり来たりしながら複数の課題を行ってもらいました。

中心になるのは、料理のまねごとです。

「小麦粉100g」「バター10g」と書かれたカードや、色とりどりのビーズをボウルに入れていきます。また工程によっては、ビーズを紐に通す作業も挟まります。

そこへキッチンタイマーが鳴ります。すると料理を中断し、別の机へ移動して、電話番号を探したり、紙にばらまかれた数字と文字を順番にたどっていったり。それを終えて、また料理に戻ります。

しかもタイマーの間隔は、最初は90秒。それが75秒、60秒、45秒と縮んでいき、最後には30秒になります。時間の余裕が、じわじわと削られていくのです。

それだけではありません。

この作業の間にずっと、正面の画面では25秒おきに単語が切り替わり、赤い背景の単語が出た瞬間だけ、書き取りに走らなければなりません。

そして、追い打ちをかけるように。20秒ごとにスピーカーから質問が降ってきて、参加者はそれに答え続けます。冒頭で紹介した、お金と写真のどちらを失うか、といった、つい考え込んでしまう質問たちです。

文字で読んでいるだけでも、目が回ってきそうです。

もし本当に女性のほうがマルチタスク全般で優れているなら、あちこちの課題で差が出るはずです。

ところが、話はそう単純ではありませんでした。

まず「料理」「電話番号探し」「数字と文字たどり」「単語の見張り」という4つの課題については、こなした量も正確さも、男女でこれといった差は出ませんでした。

実験のあとに「難しかったか」「疲れたか」「集中できたか」と本人たちに聞いてみても、答えに男女差はありません。みんな、同じように感じていたのです。

しかし会話課題では差がみられました。20秒おきに流れる質問に、男性は投げかけられた質問の27.7%を答えないまま通り過ぎたのに対し、女性が答えなかったのは11.6%だけだったのです。

平均すると、28問中で女性は約25問に答え、男性は約20問にとどまった計算になります。

もっとも、受け答えの長さや会話らしさ、そして質問が終わってから話し出すまでの速さなど会話の質や速度感は変っていませんでした。

口が重くなったわけでも、気の利かない返事になったわけでもなく、男性ではただ答える回数だけが減っていたのです。

さらに男性の回答をよく見ると、もうひとつ興味深いことが見えてきます。男性のほうが、人による差が大きかったのです。

つまり、男性全員が一様に少し無口になった、という話ではなさそうでした。ふだんどおり喋り続けた人が大勢いる一方で、一部の人がぐっと口数を減らし、その人たちが全体の平均を引き下げていたわけです。

けれど、研究者たちが本当に知りたかったのは、この先にありました。

コラム:男女の「ばらつき」の違い

今回の会話課題とは別の話として、男性は女性より、いろいろな性質で「人による差(ばらつき)」が大きい、ということがこれまでの研究で知られています。

たとえば国際的な学力調査では、成績のばらつきが男子のほうが大きく、その差は読解でおよそ15%、数学で12%、科学で14%ほどと見積もられています(Baye & Monseur, 2016;Gray et al., 2019)。

子ども向けの知能検査(WISC)を集めて分析した2024年の研究でも、男児は、目で見た情報から形や位置関係をつかむ力や、覚えた言葉や知識を使う力で、ばらつきが大きいと報告されました。おもしろいことに、記号などをすばやく見分けて処理する力にかぎっては、逆に女児のほうがばらついていたそうです(Giofrè et al., 2024)。

性格の面でも、周囲の人が評価する方式の研究で、外向性・開放性・協調性・誠実性の4つで、男性のほうが個人差が大きかったとされています(Borkenau et al., 2013)。

仕事への興味も同じで、男性は「機械やものづくり、屋外の作業」や「人を説得し、組織を率いる」といった方向で、女性は「芸術やデザイン、表現」や「事務や、決まった手順に沿う仕事」の方向で、それぞれ人による差が大きいと報告されています(Paessler, 2015)。

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