「女性はマルチタスクが得意」という神話を作るもの

5つの課題のうち、成績や速さで差がついたのは会話だけ。
しかもその会話ですら、答えの中身には差がなかった。
この結果は、「女性のほうがマルチタスクが得意」という大雑把な理解に反するものだと言えるでしょう。
では、なぜその常識は、今も多くの人に信じられているのでしょうか。
その謎に答えるため研究者たちは、課題中の男女の映像を、まったく事情を知らない160人の観察者に見せ、映像の人物を7つの項目で、自分の感覚に従って(主観的に)評価してもらいました。
その項目とは
①課題に落ち着いているか
②課題を手こずらずにさばけているか
③課題を楽しんでいるか
④課題を上手にできていそうか
⑤課題に努力しているか
⑥課題中に眠そうにしていないか
⑦課題中に幸せそうか
というものです。
結果は、「落ち着いて見えるか」という一項目を除いた残り6項目すべてで、男性のほうが低い点をつけられていました。
とりわけ見逃せないのが「課題を上手にできていそうか(④)」という評価です。
映像と音声から主観的に判断した観察者たちは、女性のほうができていると見なしました。
一方で先にも述べたように、研究者たちが実際に測定した作業の速さや正確さそのものは、男女で変わらなかったのです。
実際の成績は同じなのに、見た目の印象だけが分かれてしまったという歪みがみられたのです。
そこで次に研究者たちは映像を見聞きした人々が、女性のほうが優位としたことが、どんな要因と関連していたかを調べてみました。
すると観察者の評価と結びついていたのは、5つの課題のうち、会話課題の反応頻度だけだったのです。
つまり会話への返事が少ない人ほど、料理も、探しものも、見張りも、ぜんぶひっくるめて「うまくできていない」と見なされていたわけです。
実際にはきちんとこなしていた作業まで、たった一つの目立つ差に引きずられて、低く見られてしまったのです。
心理学には、ちょうどこれを言い表す言葉があります。一つの目立つ短所が、その人の他のすべての評価まで引き下げてしまう現象で、「ホーン効果」と呼ばれます。
角(ホーン)が一本あるだけで、悪魔のように見えてしまう、というわけです。
研究者たちも、会話の少なさという目立つ特徴が全体の印象を巻き込んだ、このホーン効果が働いていた可能性を挙げています。
しかも、時間の余裕がなくなる終盤の映像ほど、この評価の差は開きました。
制限時間が短くなるにつれて、男性も女性も動きはせわしなくなるのは同じです。
それなのに、なぜか「男性だけが余裕を失っている」ように見えてしまったのです。
さらに研究者たちは先入観の影響も調べました。
観察者の中には、もともと「マルチタスクに男女差なんてない」と考えている人もいました。
研究者たちはその52人だけを取り出して調べてみたのです。
しかし結果は同じで男性は低く評価されていました。
つまりこれは、観察者がはじめから抱いていた偏見のせいではありませんでした。
こうして眺めると、一つの筋書きが見えてきます。
「女性のほうがマルチタスクが得意」という広く信じられた背景には、忙しい最中に口数が減る男性の姿が、実際以上に大きく受け取られ、いつのまにか男性全体の低評価として世間に根づいてしまったというものです。
けれど、まだ肝心の疑問が残っています。
そもそも一部の男性は、なぜマルチタスクの最中に、あれほど言葉少なになってしまったのでしょうか。

































