ゲノム解読からシードラゴンの「奇抜さ」の秘密を解明!
タツノオトシゴとシードラゴンは、約5000万年前に分岐して以来、体形や生態を別様に進化させてきました。
タツノオトシゴは体長約10センチと小さく、尻尾を海藻に巻きつけて、ほとんどの時間を隠れて過ごします。
一方のシードラゴンは、体長20〜40センチほどまで成長し、リーフ状の付属肢を発達させることで、海藻の近くで擬態するように遊泳しています。
本研究では、シードラゴンを飼育している米バーチ水族館(Birch Aquarium)、テネシー水族館(Tennessee Aquarium)と協力し、リーフィー・シードラゴンとウィーディー・シードラゴンという2種のゲノム解読を実施。
それらの遺伝子配列を、タツノオトシゴやヨウジウオなどの近縁種、さらには、ゼブラフィッシュやトゲウオといった近縁ではない硬骨魚類と比較しました。
その結果、シードラゴンは、近縁でない硬骨魚類に比べて、脊椎動物の発生に重要な役割を果たす遺伝子の一群を欠いていることが判明したのです。
これらの遺伝子群は、顔や歯、付属肢、神経系の一部の発達に役立つことがわかっています。
加えて、シードラゴンは、近縁種に比べて、「トランスポゾン」という塩基配列が通常より多く含まれていました。
トランスポゾンは「動く遺伝子」とも呼ばれ、ゲノム上の位置を動き回ることができます。
遺伝子はふつう、染色体上の一定の位置に存在し、染色体と行動をともにするため、単独で染色体から分離したり、他の染色体に移ることはありません。
ところが、1950年代に、一つの染色体から他の染色体に単独で移動して、その場所の遺伝子作用を調節できるものが発見されました。
これが、トランスポゾンです。
トランスポゾンは、移動した場所の遺伝子を急激に変化させる機能を持っており、シードラゴンが、タツノオトシゴやヨウジウオよりも複雑な体形を発達させた理由は、ここにあると考えられます。
さらにチームは、高性能のX線顕微鏡を使って、シードラゴンの高解像度の3D画像を撮影しました。
これにより、シードラゴンの骨の微細な構造を観察することに、初めて成功しています。
すると、リーフ状の付属肢の基礎部分は、背骨から進化しており、のちに、その先端に肉付きの良い付属物が付け加えられたことがわかりました。
これは、シードラゴンの装飾が、進化的に脊椎から派生したことを示すものです。
本研究の成果により、シードラゴンの奇抜さの秘密が、徐々に紐解かれてきました。
研究チームは今後、シードラゴンのゲノム配列を世界に公開することで、進化や発生遺伝学の更なる研究だけでなく、この希少な魚の保護にも役立てたい、と考えています。