堀田昌寛氏が提唱した「量子エネルギーテレポーテーション理論」
SF作品ではさまざまな動力源が登場します。
その中には核融合炉のような現実が追い付きつつものもあれば、対消滅を利用した反物質炉やブラックホールを利用した縮退炉、さらには真空の揺らぎからエネルギーを採取する「ゼロポイントエネルギー」なども登場します。
20世紀には核融合炉を含めて全て「遠い」技術と思われていましたが、21世紀に入ると少しずつ状況が変化してきました。
特にゼロポイントエネルギーに関しては大きな前進があり、2008年に日本人の堀田昌寛氏によって画期的な「量子エネルギーテレポーテーション理論(QET)」が発表されました。
量子エネルギーテレポーテーション理論では、量子もつれとゼロポイントエネルギーを使用することで、ある空間Aに入力したエネルギーを別の空間Bへテレポートさせ取り出すことが可能であることが示されています。
「何もない空間にエネルギーを入れられるのか?」と思う人もいるかもしれませんが、実は私たちの存在する宇宙には、真の意味で「無」である空間(真の真空)は存在しません。
空間をどんどん拡大していくと、そこでは激しいエネルギー変動が起きており、粒子が現れては消えていくというダイナミックな世界が広がっています。
このような空間が持つ揺らぎのエネルギーのことを物理学では「ゼロポイントエネルギー」と呼んでいます。
量子エネルギーテレポーテーション理論では、量子もつれの仕組みを使って、このゼロポイントエネルギーに対してエネルギーの入力と出力を行うことを目指しています。
量子力学では粒子だけでなく空間のエネルギーも、もつれ状態にできると考えられているからです。
そのためA地点とB地点の空間が量子もつれの状態にある場合、A地点の空間とB地点の空間の真空のエネルギーは離れていても運命が「連動」するようになります。
このときA地点に対して測定と同時にエネルギーを与えた場合、運命が連動しているB地点からは、A地点に入力したぶんだけエネルギーを取り出せるようになるのです。
エネルギーをお金、A地点とB地点がATM、そして空間のエネルギーが銀行、量子もつれをATM間を結ぶ口座情報だとすると、わかりやすいかもしれません。
異なる場所に置かれたATMでも口座の残金という運命によって繋がっています。
量子エネルギーテレポーテーションも同様に、量子もつれによってA地点とB地点が運命共同体となりA地点のゼロポイントエネルギーにエネルギーを追加し、B地点のゼロポイントエネルギーからそのぶんだけ引き出すのです。
量子エネルギーテレポーテーション理論はその難解さと奇抜さから、発表当初は現実では実現不可能であると考えられていました。
しかし2023年に行われた別々の2つの研究によって、量子エネルギーテレポーテーションの実証が成功しました。
1つ目の研究は有機分子内部の炭素間でのエネルギーテレポート、2つ目の研究では量子ビット間のエネルギーテレポートが実証されました。
これらの研究では空間的なA地点B地点というものを、有機分子内の2カ所の炭素原子や量子コンピューター内部の2カ所の量子ビットで代用されており、一方の炭素原子や量子ビットにエネルギーを注入した後、もう一方でテレポートと抽出ができることが示されています。
2つの実証実験が成功したことにより、量子エネルギーテレポーテーションは理論から現実的な技術へと大きく踏み出しました。
ただエネルギーのテレポート自体には成功したものの、そのエネルギーを保存することはできませんでした。
B地点から取り出したエネルギーは不安定で、すぐに周辺の空間に飛び散ってしまったからです。
エネルギーの注入、テレポート、エネルギーの抽出の3つが実現しても、そのエネルギーの保存ができなければ実用面において問題になります。
そこで新たな研究では、B地点から抽出したエネルギーを保存するための新たな方法が考案されました。