そもそも「量子って何?」「もつれって何?」から始めよう
「量子もつれ」について解説する前に、多くの人にとって謎である「量子」や「もつれ」といった単語について簡単に解説したいと思います。
量子というのは、ザックリ言えば小さな粒です。
といっても、BB弾のように肉眼で確認できるようなサイズの粒ではありません。
では、どれくらいの小さい粒なのか?
さまざまな解釈がありますが、一言で答えるならば量子は「日常生活で学んできた常識が通じなくなるほどの小さな粒」となるでしょう。
テニスボールやサッカーボールなど、人間の手にとれるサイズにある物体がどのように転がったり飛ばされるかは、日常の常識でも十分理解できます。
しかし量子レベルの小さな粒は、何もない空間から突然現れては消えたり、1つの量子が2つの穴を同時に通過したりと、日常の常識から外れた振る舞いをはじめます。
これは、私たちがテニスボールやサッカーボールで学んだ日常の常識が、宇宙に存在する全ての物理法則のなかで通用する割合がほんの僅かでしかないことが原因です。
量子世界の法則も、そんな日常の常識の範囲外に存在する分野の1つと言えるでしょう。
ではもう一方の「もつれ」とはどんな意味なのでしょうか?
国語的な意味での「もつれ」は、「こんがらがり、からまり、いざこざ」など、複数の要素が複雑に関連している様子を意味しています。
つまり「量子もつれ」とは「日常の常識が通じないほど小さな粒子たちが、お互いに複雑に関連している」という意味に翻訳できます。
といっても、あまりピンとこないかもしれません。
そこでまずは、いったん常識が通じる例をあげたいと思います。
たとえば、男女の恋人のうち1人が北海道、もう1人は九州に行く場合を考えます。
このとき、北海道にいるのが男性の場合、九州にいるのは女性であることが自動的に確定します。
一方が誰かわかれば、もう一方も誰かわかるというのは、日常の常識です。
では似たような例を「光」で考えたいと思います。
といっても難しい話ではありません。
光の粒である光子を特別な結晶にあてると左行きと右行きの2つに分割され、一方が縦揺れの光、もう一方が横揺れの光になる場合があります。
この現象が「量子(光)が常識が通じる存在だと仮定した場合」には次の図のような①~④の順で理解することが可能です。
これも基本的には恋人たちの場合と同じです。
北海道に行ったのが男性ならば、九州にいるのが女性であるのが明らかであるように、右側に行った光を観測して縦揺れの光であれば、もう一方は横揺れの光なのは確定します。
当然ともいえる常識的な話を、なぜいちいちあげつらうかと思われるでしょう。
しかし先ほども述べたように、これは本来ならば常識が通じない量子を、常識が通じる相手として仮定した場合になります。
つまり、極めて当然と思えるこの理解は……
量子の世界では間違っているのです。
では真実はどんなものなのかと言うと、それは以下のようになります。
まず1つの光子が結晶に当たって、2つに分割するまでは同じです。
しかし真相は、左右に分かれた2つの光について「一方が縦揺れならもう一方が横揺れになる」という決まりだけが、見えない糸で関連付けられただけの状態(もつれ状態)にあり、どっちが縦揺れか横揺れかといった情報は、まだこの宇宙には存在していないのです。
この奇妙な真実を北海道と九州に旅立った恋人たちで例えるならば「一方が男であるならば、もう一方が女になる」という決まりだけが見えない糸として存在しており、北海道と九州に存在している2人は、男でも女でもない状態で存在していることになります。
恋人たちを例にとると奇妙さが際立ちますが、日常の常識が通じない量子の世界ではこの理解のほうが正しいのです。
しかしこれはまだ序の口に過ぎません。
真に奇妙な現象は、観察を行うと同時に起こり始めます。
さきほど真相は、左右に分かれた2つの光は「一方が縦揺れならもう一方が横揺れになる」という決まりだけが、見えない糸で関連付けられただけの状態にあり、どっちが縦揺れか横揺れかといった情報は、まだこの宇宙には存在していない状態にあるると言いましたが、観察を行った瞬間、縦揺れでも横揺れでもなかった光に変化が起こり、どちらか(図では縦揺れの光として)生まれ変わります。
そして一方(図では右)が縦揺れの光に生まれ変わったという情報は、2つの光の間を結ぶ見えない関係性の糸を伝ってもう一方(図では左)に瞬時にテレポートしたかのように転送され、もともとのどっちつかづの光が横揺れの光として再構成されるのです。
「右側の光が縦揺れならば左側の光が横揺れになる」という結果自体は日常の常識と同じです。
しかし縦揺れか横揺れかの情報は観測するまでこの宇宙に存在すらしておらず、観測することではじめて実在する情報になるという点、そして一方を観測したという情報が瞬時にテレポートして、もう一方の光が揺れ方向を持つ光として新たに再生成させるというプロセスは、日常の常識とはかけ離れたものであり、どちらかというとSF世界の話のようにも聞こえてきます。
正直言って「信じがたい」「嘘くさい」「マンガの読み過ぎ」「ありえん」と思う人もいるでしょう。
大丈夫です、それと全く同じ感想を述べた、稀代の大科学者が存在します。