8500人超のデータが示した“占星術信仰”の真実

占星術は、はるか古代バビロニアや中国の宮廷から、ケプラーやガリレオといった天文学者たちの時代に至るまで、さまざまな文化圏で「個人の運命や性格は天体の動きに左右される」という考え方として親しまれてきました。
中世の神学者アウグスティヌスは、まったく正反対の性格を持つ双子を例に「同じ日に生まれてもまるで違う」と占星術に疑問を投げかけ、16世紀の宗教改革者マルティン・ルターは「星々が決めるのではなく神が決める」と言及するなど、早い時代から批判の声も上がってきたのです。
しかし、現代においても占星術の人気は衰えず、たとえばアメリカでは約3割の人が占星術を「信じる」と回答したという調査結果もあるほか、若い世代の女性のうち4人に1人が占星術アプリをダウンロードしているとのデータもあります。
さらに血液型を知らなくても、星座は知っているという人は決して少なくありません。
心理学者ハンス・アイズンクは、「もし占星術の予測が再現性を持って当たるなら、それは疑似科学ではなく科学かもしれない」として真面目に検証を行い、一時は「火星効果(Mars Effect)」が話題を呼びました。
しかし、その後の厳密な研究では“火星効果”は再現されず、占星術自体には有意な科学的根拠がないという結論が主流です。
それでも「星占いが当たっている気がする」と感じる人が多いのはなぜか――神秘的なものへの飽くなき好奇心や、不安をやわらげるための心理的作用だけで説明できるのかどうかは、疑似科学・オカルト研究においても大きなテーマとなっています。
こうした疑問に関連して、「学歴や知能が高いと占星術を否定しやすく、逆に低いと信じやすい」という見方や、「宗教や霊的な信念を強く持つ人が天体の力を求めがちなのでは?」という仮説、あるいは「保守的・権威主義的な人々は占星術のような運命論を受け入れやすいのでは?」といった推測が以前から議論されてきました。
しかし、それらを大規模かつ多面的なデータで同時に検証した研究は意外と多くありません。
そこで今回研究者たちは、数千人規模の社会調査データを統計解析し、「いったいどのような要因が占星術を“科学的”だと感じさせるのか」を探るアプローチをとることにしました。
調査では、アメリカを代表する大規模社会調査「General Social Survey(GSS)」のデータを使用。
ここでは多様な質問がランダムに割り当てられ、さらにサンプリングにも工夫が施されており、アメリカ全体の人口構成をなるべく正確に反映するよう設計されています。
研究者たちは、このGSSの膨大な回答の中から「占星術を科学的だと思うか?」という質問に注目し、計8,553人分を抽出。
そして、それらの人々について、以下のポイントを詳しく調べました。
知能レベル(Wordsumテスト)
簡単な語彙テストで、一般的なIQテストとも強く関連する指標です。
難解な問題ではなく、「単語と最も近い意味を持つ選択肢を選ぶ」というシンプルな形式なので、多くの人が回答できるユニークな方法といえます。
教育年数
人が何年学校教育を受けたかを数値化したもの。いわゆる学歴のめやすになります。
その他の要素
宗教性やスピリチュアリティ、政治的立場、科学への信頼度、そして年齢や性別、人種といった基本的なプロフィール。
占星術を信じやすいかどうかに関わっていると思われる要因を、一挙に調べました。
このように多角的なデータを組み合わせ、統計的に関連を分析したところ、知能や教育年数が低いほど「占星術は科学的だ」と信じている人が多いという傾向が、非常に明確に浮かび上がりました。
一方で、これまで「宗教的・霊的な信念」「保守・リベラルなどの政治的立場」「科学への信頼度」が関わっているのではないかと議論されてきましたが、今回の解析ではそれらはほとんど影響を与えていないか、あるいは有意な関連が見られなかったのです。
なぜこれが革新的なのか?
従来の研究はサンプル数が小さかったり、一部の要素だけを見ているものが多かったため、「本当にどの要因が占星術信仰に深く関わっているのか」ははっきりしませんでした。
ところが今回の研究では、膨大な人数(8,553人)を対象に、知能・学歴・政治観・宗教心などを一度に比較。
すると、占星術を「科学的」とみなす人の特徴として際立ったのは、“知能・教育の低さ”だけだったのです。
こうして、“占星術への信念と知能(あるいは学歴)”の相関が大きくクローズアップされたことで、疑似科学やオカルトを信じる心理を解き明かす手がかりが、よりはっきりしたと言えるでしょう。