AIが設計した重力波検出器は人間には理解しきれない仕組みがあったと判明
AIが設計した重力波検出器は人間には理解しきれない仕組みがあったと判明 / Credit:clip studio . 川勝康弘
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AIが設計した重力波検出器は人間には理解しきれない仕組みがあったと判明 (2/3)

2025.04.22 21:00:49 Tuesday

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人類製を超えた──AI製“謎トリック”重力波望遠鏡

人類製を超えた──AI製“謎トリック”重力波望遠鏡
人類製を超えた──AI製“謎トリック”重力波望遠鏡 / AIから知識を授かる人類/Credit:clip studio . 川勝康弘

研究チームはまず、重力波を検出する仕組み全体をコンピュータ上で扱えるよう、「重力波検出器そのものを丸ごと数式モデルに落とし込む」という作業からスタートしました。

たとえば「鏡の反射率はどれくらいか」「ビームスプリッターをどの位置・角度で置くか」「アームは何メートル(あるいは何キロメートル)が最適か」「レーザーはどのくらいの強さで、位相はどれだけずらすべきか」など、考え得るすべての要素をパラメータとして設定できるようにしたのです。

このモデルを使って、開発したAIアルゴリズム「ユラニア(Urania)」に「ひたすら重力波をとらえる感度を高めるには?」というお題を与えました。

ユラニアは最初、パラメータの組み合わせを手当たり次第に試しては、結果(感度が上がったか、下がったか)を見て修正を繰り返します。

言わば、何十万通り・何百万通りもの配置や設定を片っ端から検証するイメージです。

この一連の探索は総計150万CPU時間にも相当する膨大な計算を要し、実際の期間にすると約2年かけてじっくり進められました。

まるで“忍耐強い研究者”が24時間ぶっ通しで実験しているようなものですが、人間とは違いAIは休まず一瞬たりとも手を止めないため、想像を絶する規模で検討を重ねられたわけです。

こうして弛まぬ探索の末に見つかったのが、50種類以上に及ぶ新しい検出器デザインでした。

しかも、そのうち多数の案が次世代のLIGO(Voyager)設計よりも高感度を示したのです。

具体的には「どれだけ遠くの重力波をキャッチできるか」という目安が10倍以上も拡張され、宇宙の体積に換算すれば約50倍もの広い範囲で重力波イベントを観測できる可能性がある、という衝撃的な結果となりました。

もし実用化できれば、「観測できる宇宙」を一気に広げる夢のようなブレイクスルーになると期待されています。

さらに興味深い点は、AIが導き出した解の中に、すでに人間が長年かけて開発してきた手法を“偶然にも再発見”したものが含まれていたことです。

たとえば「スクイーズド光」という特殊な光の使い方で量子ノイズを抑えるテクニックなどが典型例で、これはAIの回答が既存のノウハウと一致したという意味で、AIの信頼性や妥当性を裏付ける結果にもなりました。

一方で、まったく予想外の奇抜なトポロジー(光学素子の配置の仕方)もいくつも見つかりました。

中でも特筆されるのが、「L字型の干渉計を2台のレーザーで左右から同時に照射(ポンプ)する」というアイデアです。

通常のLIGO型では1つの強力なレーザーを用い、ビームスプリッターで分けて2本の腕に光を送り込みますが、AIの設計では2台のレーザーを別々に使って同等のパワーを確保しつつ、複雑な干渉効果を狙うという発想が採用されていました。

一見すると手間やコストが増えそうに思えますが、実はレーザー1台あたりの出力を抑えられる分、かえって鏡や光学系への負担を軽減できる可能性があるなど、意外なメリットも見えてきたのです。

興味深いのは、これらの「AI発見のトリック」は設計図としては人間が読めるものの、なぜそれがこんなにうまく働くのかを“教科書レベルの物理理論”に訳しきれていないという点です。

具体的には、「どの光をどう経路変更するとノイズが下がり、なぜこれほど信号が増幅されるのか?」は設計図を見れば一応わかるものの、それを人間の言葉で完璧に説明できない領域がまだ残っているのです。

研究者たちは「動作原理を理解しきるためには、さらに詳しく分解し、解析する必要がある」と述べており、この“解読作業”が今後の大きな課題の一つになっています。

なお、ユラニアがどんなふうに「ひらめき」を起こしているのかを遡ってみると、その性能向上のプロセスは必ずしもスムーズな右肩上がりではなかったといいます。

長い間ほとんど改善がない“停滞期間”があったかと思えば、ある瞬間にパラメータの組み合わせが見事にハマり、「ガツン」と感度が跳ね上がる場面が何度か観測されました。

人間でいう“アハ体験”のように、AIも突破口を見出した瞬間に急激な性能アップを遂げるのです。

これはまるで、AIが自分なりに新しい物理的発想やトリックを「発明」しているかのようにも映ります。

このように多彩な新デザインが生まれたことは、重力波研究にとって大きな可能性を示すと同時に、「では本当にどうやってそんなアイデアに到達したのか?」を人間が理解するという新たな課題も浮かび上がらせています。

とはいえ、まずは検出器として優れた感度を示すアイデアが確かに見つかったという事実が重要です。

今後、研究者たちはこれらを詳細に分析し、“作れそうなもの”から順番に小規模な実験で試し、実現性やコスト面を検討していく予定とされています。

結果次第では、私たちがまだ想像したことのない形で、重力波の観測能力が一気に進化するかもしれません。

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