恐竜が作っていた景色、いなくなったあとの景色
研究チームが注目したのは、恐竜時代から哺乳類時代へ移り変わる「白亜紀–古第三紀境界(K-Pg境界)」と呼ばれる地層の変化でした。
アメリカ西部のモンタナ州やノースダコタ州に広がる「ウィリストン盆地」では、恐竜絶滅の前後で岩石の姿が一変していました。
恐竜時代の地層は、水浸しの土壌や、氾濫原の縁にある泥っぽい地形を示していました。
しかし絶滅後に堆積した「フォートユニオン層」は、まるでパジャマの縞模様のように色鮮やかな層が積み重なっていたのです。
当初、これらは「海面上昇によってできた池の跡」と考えられていました。
しかし調査を進めた結果、実際には「大きく蛇行する川の内側にできる堆積物」だと判明しました。
つまり、恐竜絶滅の直後から川の姿そのものが変わり始めていたのです。
【恐竜がいなくなった後(上)と恐竜がいたころ(下)の生態系のイメージ画像がこちら】
なぜ川が蛇行するようになったのでしょうか。
カギを握るのは「森林」でした。
恐竜が生きていた時代、彼らは巨体で森をなぎ倒し、樹木の間を開けた空間をつくっていました。
そのため景色は草や雑草に覆われ、川も広がりやすく、自由に流れていたのです。
ところが恐竜が消えた瞬間、森林は爆発的に繁茂しました。
根を張った木々は土壌を安定させ、水の流れを狭い川筋に閉じ込めるようになり、川は次第に大きく蛇行していったのです。
この変化は地質記録にもはっきりと刻まれています。
絶滅直後の地層には「リグナイト(亜炭)」と呼ばれる低品質の石炭層が多く見つかります。
これは有機物が洪水で流されずに蓄積した証拠であり、森林による土壌安定が川の氾濫を抑えていたことを示しています。