なぜ女性はリアルな犯罪を描く「犯罪ドキュメンタリー」が好きなのか?

なぜ女性はリアルな犯罪を描く作品をよく見るのか?
答えを得るため研究者たちはまず成人571人を対象に詳細なオンライン調査が行われ、参加者に対してどれくらい犯罪ドキュメンタリーを視聴するか、また「なぜ見るのか?」という動機についても答えてもらいました。
対象となった媒体は、テレビ・配信番組、映画、ニュース、ポッドキャスト、本など多岐に及びます。
結果、まず女性の方が男性よりも統計的に多く犯罪ドキュメンタリーを視聴していることが確認されました。
例えば全参加者の平均値では、女性が週あたり約7時間視聴していたのに対し男性は約4時間程度だったと、大学の発表では説明されています。
この差はテレビ番組、映画、ニュース、本、ポッドキャストといった多くの形式の犯罪ドキュメンタリーで一貫しており、特にポッドキャストでは差が大きかったとされています。
つまり「犯罪もの好きは女性」というイメージは統計的にも裏付けられたのです。
では人々はどんな動機でこのジャンルに惹かれているのでしょうか。
参加者に理由を尋ねたところ、最も多かったのは「なぜこんなひどい事件が起きたのか心理を知りたい」という答えでした。
大学の発表では、約75%もの人が「なぜこんなひどい事件が起きたのか心理を知りたい」と答え、次いで3割が「単純な好奇心」、約28%が「司法や捜査への関心」を動機に挙げたとされています。
統計解析でも、「現実の事件だからこその謎解きや正義のドラマに魅力を感じる」動機(真正性)が最も強く、多くの人に共通する主要な理由であることが示されました。
しかし興味深いことに、そうした主要な動機だけでは説明できない差も浮かび上がりました。
統計モデルを用いて視聴量(消費頻度)との関係を詳しく分析したところ、単に「実話だから見たい」というだけでは「たくさん見る人」と「ほどほどの人」の違いは説明しきれませんでした。
代わりに、「危険に備えたい」という動機と「スリルを味わいたい」という動機が強い人ほど視聴量が多い傾向が明らかになったのです。
平たく言えば、「何かあったときのため勉強として見ておきたい人」と「ハラハラドキドキを娯楽として求める人」が、犯罪ドキュメンタリーを見がちになる傾向を持っていました。
実際、この2つの動機スコアは他の要因を考慮しても視聴量(消費頻度)を追加で説明する有意な予測因子となっていました。
さらに、暗い好奇心(morbid curiosity)の中身も分解されました。
人によって、「血なまぐさい場面そのものを見たい」という好奇心と、「危ない人の心の中を理解したい」という好奇心は、少し違うものです。
分析の結果、「凶悪犯の心理を知りたい好奇心」と「血や死の場面そのものを見たい好奇心」など、好奇心の内容を細かく分けて分析しました。
すると、「危ない人間の心の中を理解したい」という好奇心が強い人ほど犯罪ドキュメンタリーをよく見る傾向がある一方で、「暴力そのものへの好奇心」は視聴量との関連が認められませんでした。
さらに心理特性との関連からも、この現象の裏側が見えてきました。
統計解析によれば、日常的に犯罪被害への不安(「自分も被害に遭うかも」という気持ち)が強い人ほど犯罪ドキュメンタリーの視聴量が多い傾向がありました。
恐れや安全でないと感じる感覚が強い人ほど、現実の犯罪ケースに目を向けて情報収集しようとするのかもしれません。
さらに興味深いことに統計分析を進めていくと「危険に備える」という動機を強く持つ人ほど、感情の整え方(emotion regulation:気持ちの扱い方)に気持ちの切り替え方などの工夫がある傾向もみえてきました。
実際、大学の発表では、別の調査として犯罪ドキュメンタリーファンの脳をMRIで調べた結果も紹介されており、日常的に恐ろしい物語に触れる人ほど、不安やストレスへの対処に関わる脳のつながりに特徴がある可能性が示されています。

以上の結果をまとめると、視聴量の個人差を追加で説明したのは「怖いからこそ知りたい」防衛的警戒(危険に備える気持ち)と、「スリルを求める心」にあると言えるでしょう。
恐ろしい事件の裏側を理解し、自分の身に降りかかる危険に備えつつスリルも楽しむ――そんな前向き(?)な目的が、人々を暗い物語へ引き寄せていました。
この発見は、「なぜ人はわざわざ嫌なニュースを見てしまうのか」という素朴な疑問に対し、一つの合理的な答えを与えてくれます。
研究チームのペルヒトルト=シュテファン氏は「犯罪を調査し理解しようとすることで危険がより具体的になり、結果として日常生活で感じる怖さが少し扱いやすくなる。脅威を知って備えているという感覚が得られるのです」と述べています。
これは、たとえるなら犯罪ドキュメンタリーが一種のシミュレーション教材のように機能し、視聴者に心の“予行演習”のような感覚をもたらすことがある、と受け止めることもできます。
例えば防犯の知識を深めたり、ストレス耐性を高めたりといったポジティブな側面があるのなら、犯罪ドキュメンタリー人気もただの「怖いもの見たさ」と侮れません。
社会的に見ても、本研究の示唆するところは大きいと言えます。
犯罪ドキュメンタリーという一見ミーハーな娯楽の裏側に、人々(特に女性)の切実な安全欲求が潜んでいる可能性が示されたからです。
もし「怖い番組」を通じて防犯意識を高めたり不安を和らげたりできるのなら、それは有益な副産物でしょう。
本当に危ない場面に遭遇したとき「どこかで見たシーンだ」と冷静になれれば……それこそ最悪の事態を回避する一助になるかもしれません。
人は嫌いなものから逃げるだけでなく、敢えて向き合うことで克服しようとする生き物です。
「怖いのにやめられない」リアルな犯罪記録には、そんな人間の不思議な心理と生存戦略が潜んでいるようです。





























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