注射で体内に作る「補助の肝組織」
人間の肝臓は、毒素の分解、薬の代謝、血液凝固に関わる物質の産生など、数百におよぶ重要な働きを担っています。
これまでは「悪くなった肝臓」に対して、「丸ごと置き換える」という肝移植が行われてきましたが、提供される臓器には限りがあります。
そこで研究チームは、病気の肝臓はそのまま残し、体の別の場所に補助的な肝組織を「足す」というアイデアを採用しました。
肝臓の働きの主役となるのが肝細胞なので、これを足すというわけです。
肝臓そのものが硬く傷んでいる患者では、もともとの肝臓の中に新しい細胞を定着させるのは簡単ではありません。
また、肝細胞をそのまま体内に注射しても、細胞はばらばらに散ってしまい、うまく血管とつながれず、十分に生き残れません。
そこでMITの研究チームは、肝細胞に「住む場所」を用意するという発想を取り入れました。
研究ではまず、ヒト肝細胞と線維芽細胞を小さな塊にしたうえで、それをハイドロゲル製の微小な球と混ぜます。
この微小球は、注射器の中では流れやすく、体内に入ると互いに集まってスポンジ状の足場を作る性質を持っています。
マウス実験では、この混合物を超音波で位置を確認しながらマウスの腹腔内の脂肪組織へ注入しました。
この部位が選ばれたのは、過去の研究から、皮下よりも腹腔内の脂肪組織のほうが肝細胞の生存に向いていることが示されていたからです。

注射された微小球はその場にとどまり、内部に空間のある足場を作りました。
そこへ宿主側の血管が入り込み、移植された肝細胞が栄養を受け取れる環境が整っていったのです。
その結果、肝細胞は単に生き残るだけでなく、血液中にヒトアルブミン(血液中で栄養や薬物などを運ぶ代表的なタンパク質)を分泌するなど、肝細胞らしい働きを保っていることが確認されました。
さらに組織を詳しく調べると、肝細胞の特徴を示す指標も保たれており、足場の中でまとまった組織様の構造ができていました。
つまりこの方法は、単なる「細胞注射」ではなく、体内で働ける小さな移植用の居場所(細胞が定着して働ける環境)を作る技術として機能したのです。
では、この実験は私たちにどんな希望を与えてくれるのでしょうか。

























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